温暖化:魚の体温
魚は人(ヒト)のような体温を持ちません。魚は水にいますので基本的に体温は水温で、水温が体温です。魚は自分たちに適した水温のなか(範囲)で生活することで、自分たちに適した体温を保ちます。しかし、適した体温を保てない場合、魚はそれを得られる水温に移動する(泳いでいく)ことで対応します。
養殖されている魚ではどうでしょうか?
限られた空間の生簀で魚を養殖するということは、魚の自然な行動を制限しているということであり、魚は人の管理に頼るしか自身に適した体温(水温)を得ることができません。言い換えれば、そのために工夫して自分の魚に適した水温を与えることが養殖という事業の義務ともいえ、それを果たそうと努めるのが養魚家(企業も含め)です。
水温に対する工夫には、この記事のように生簀や漁場の水平方向(例えば、高水温なら高緯度、低水温なら低緯度)への移動が検討されるほか、表層の水温が高くなりやすく低くもなりやすいことから垂直方向(生簀の沈下や深底化)への移動もオプションです。
また、どの方向への移動でも、低酸素や赤潮のリスクを考慮に入れて場所や水深を決める必要があります。魚に対する水温の影響はこれらのイベントが重なることでより深刻化するのが一般的で、例えば、水温30度でも酸素飽和度80%では問題なく魚は元気なのに、酸素飽和度が70%に低下すると斃死やショックが出はじめるというようなことが起こります。
配合の調整や機能性原料の添加といった飼料からのアプローチは、このような生簀や漁場の物理・水質環境についての工夫があって初めて効果を期待することができるものであり、「魔法の弾」ではありません。
選抜育種やゲノム編集等で温度耐性を付加することができても、海面での養殖では逃亡による生態系への影響リスクを避けなければならず、そのためには性成熟しない魚の生産やその魚を再生産する技術の確立が必要であり、それにはまだ時間を要します(詳しくは前回投稿を参照)。
一方で、水平や垂直方向への移動が難しいとしても、給餌量/頻度の調整や低収容密度化によるストレス軽減を通して、温度の影響をすこしでも抑制しようとするなどの試みは古くても新たなものとして検証されるべきでしょう。
温暖化に伴い養殖を取り巻く水環境が変化していくことは必至であり、そこでは養魚できるところが生き残ります。
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