様々な増肉係数(FCR)

水産養殖では様々な増肉係数(FCR)を用いて事業が管理されています。

FCR=摂餌量/魚体増重量・・(1)

先の投稿で紹介しましたようにFCRは上の(1)式で算出されるのが一般的(基本式)ですが、例えば、これを次の(2)式のように変えて使用する場面もあります。

FCR=給餌量/出荷重量・・(2)

これはいわゆる経済的増肉係数(economic FCR:eFCR)の一つで、分子の「給餌量」は食べこぼされた/残されたエサの重量を含む真の給餌重量、また分母は「出荷重量」ですので、死亡魚や取り揚げ~出荷までに選別された魚の重量を加えたり、池入れ時の魚やの重量を差し引いたりしていない売りが立った真の魚体重量です。つまり、このeFCRからは売り上げた魚に要したエサの量、すなわち事業経営上の重要な指標で次の(3)式から求められる真の飼料(増肉)コスト((feed cost of gain)を算出するための基になる情報が得ることになり、

飼料コスト(円/単位出荷重量)=eFCR×飼料単価(円/単位飼料量)・・(3)

これにより、飼料を上手に使って魚を丁寧に生産できたのか?という事業での飼育管理(husbandry management)能力をマクロな視点から評価することが可能になります。よくFCRというと飼料の性能と捉えて語られることがありますが、(2)式の「給餌量」や「出荷重量」が飼育管理のなかで発生する様々なパラメータの関数であることを理解している事業者は冷静です。

ちなみに、『アトランティックサーモンのFCRは何々』と言われることがありますが、多くはeFCRの数値に基づきます。また、先に(2)式をeFCRの「一つ」と紹介しました。例えば、ノルウェーでは飼料原料162万トンを使用した年に125万トンのアトランが生産されましたので、

eFCR=162/125=1.30・・(4)

また、(4)式での飼料原料はas-is basis(現状そのまま)ですので飼料原料を乾物換算した152万トンでは、

eFCR=152/125=1.22・・(5)

一方、125万トンの魚は商取引登録された配合飼料が154万トンであった年に生産されましたので、

eFCR=154/125=1.23・・(6)

になりますし、アトランはブリやマダイのように「丸(全魚体:whole fish)」で売られることはあまりなく、フィレで売りが立てられますので、例えばフィレ歩留り65%を(4)式に掛けると、

eFCR=162/(125×0.65)=1.99・・(7)

になります。

つまり、eFCRといっても何をターゲットにするのかでバリエーションがあり、計算に用いられるパラメータも変わってくるということを理解しておくことが、データや事業の効率を正確に解析・把握するためにはとても大切になってきます。また、ノルウェーの例は養殖が国の重要産業としてモニターされていることの証左でもあります。

*この記事に関する補足説明(2024年4月)のをここに追加しました。
*生物学的増肉係数(bFCR)、補正増肉係数(cFCR)についてここに追加しました。

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