補正増肉係数(compensated FCR)
シェアしておこうと思わされる場面にたまたま遭遇しましたので、今回は再度、FCRに関する投稿です。少し長くなると思いますので2回に分けます。
養殖では常にeFCR(econmic FCR:経済的増肉係数)に注目すべきですが、そのFCRだけに頼ることで誤った(時にはもったいない)判断を下してしまう場合があります。国内外で、しかも、事業規模に関わらず、そのような状態にある生産者がいます。
細かな数字を見るのは時間がかかることですので効率が悪いと思われがちですが、そういうところに大切なヒントが隠されていることがあるのも事実です。記帳や集計のシステムにAIが組み込まれてくると、「効率が悪いな」となまけ心を感じる間もなく、注目すべき点を指摘してくれると期待しています。
さて、出荷や水揚げタイミングまでのeFCRには、
eFCR=飼料購入量/出荷重量
eFCR=給餌量/水揚げ重量
eFCR=給餌量/(出荷時バイオマス-池入れ時バイオマス)
eFCR=給餌量/(水揚げ時バイオマス-池入れ時バイオマス)
などのバリエーションがありますが、これらの分母にはエサを食べながらも途中で亡くなってしまった魚やエビは含まれていません。
そこで、その重量を計算に入れたbFCR(biological FCR:生物学的増肉係数)というFCRを求め、平たくいうと、エサがどれほど有効に魚やエビの体が育つために利用されていたのかを検討する必要がでてくる場合があります。
例えば:
bFCR=給餌量/((水揚げ時バイオマス+死亡個体バイオマス)-池入れ時バイオマス)
しかし、「死亡個体バイオマス」は:
死亡個体バイオマス=死亡個体1の重量+死亡個体2の重量+・・・+死亡個体nの重量
で厳密には求められるものであり、実際の生産フィールドでこれを達成しようとすると、生簀や池を24時間モニターして、魚やエビが1尾(個体)死亡するごとに取り揚げて重量を測定しなければならず現実的ではありません。
そこで:
死亡魚バイオマス=死亡個体数×平均死亡個体重量
で代用します。
「死亡個体数」を得るには、生簀や池を24時間モニターする必要はなく、ルーチンの業務で死亡個体を取りあげ計数すれば良いですし、また、必要に応じて適宜:
死亡個体数=水揚げ個体数-池入れ個体数
で算出します。
ちなみに、魚では実際の取揚げ死亡個体数とこの計算値の乖離の程度をチェックすることで、尾数減少につながる他のインシデント(例えば、逃亡など)によるインパクトを知ることができます。
また、広大な池で養殖され、水の透明度が低く、池入れされる種苗のサイズが極めて小さい上、共喰いや鳥害などの影響も大きいエビ養殖では、もともと死亡個体の回収が難しいため自ずとこの方法で死亡個体数を算出(推定)するしかないという縛りもあります。
さて、「平均死亡個体重量」ですが、これは:
平均死亡個体重量=(池入れ時平均個体重量+水揚げ時平均個体重量)/2
として、池入れから水揚げまでの期間において特定の時期に何か特別なインシデントによる死亡がなかったことを前提に、最初と最後の重さの平均値で代用します。
したがって、「死亡魚バイオマス」は:
死亡魚バイオマス=(水揚げ個体数-池入れ個体数)×(池入れ時平均個体重量+水揚げ時平均個体重量)/2
そして、これらをもとにして:
bFCR=給餌量/((水揚げ時バイオマス+死亡個体バイオマス)-池入れ時バイオマス)
を
bFCR =給餌量/((水揚げバイオマス+((水揚げ個体数-池入れ個体数)×(池入れ時平均個体重量+水揚げ時平均個体重量)/2))-池入れ時バイオマス)
と書き換え、実用的なものにします。
このbFCRを、もとのbFCRと区別するためにcompensated FCR(cFCR:補正増肉係数)と呼ぶことがあり、これをバイオマス(群)としてではなく、個体あたりの数字で捉えて:
cFCR=(給餌量/平均個体数)/平均個体増重量
=(給餌量/(池入れ時個体数+水揚げ時個体数)/2))/(水揚げ時平均個体重量-池入れ時平均個体重量)
としたり、同じく:
cFCR=給餌量/(平均個体数×平均個体増重量)
=給餌量/((池入れ時個体数+水揚げ時個体数)/2)×(水揚げ時平均個体重量-池入れ時平均個体重量))
としたりして、求めたりもします。
これまで試されたことがなければ、成長率や給餌率など他の指標とともに、それぞれ異なる意味を持つeFCRとcFCRを組み合わせて飼育成績を俯瞰されてみられてはいかがでしょうか?
今まで気づかなかった何かが見えてくるかも知れませんね。
*ちなみに、bFCRですが、真のbFCRを求めるには、食べられなかったエサや流出したエサを含む「給餌量」ではなく、魚やエビが食べた「摂餌量」を計算に使用する必要があります。
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