変わり種の増肉係数:乾物FCR(dry matter FCR)
閉鎖循環式陸上サーモン/トラウト養殖への参入が国内で活発化している現状を上手くまとめた内容で大変分かりやすい記事ですね。各プレーヤーがどのようなビジネスモデル、飼育システムで競争し、結果、誰(どこ)が抜き出るのか?それぞれの総合力が試されることになるでしょう。今回は、陸上養殖の効率化や持続性を考える際に少しは(?)役立つと思われるちょっと変わり種の増肉係数(Feed Conversion Ratio, FCR)についてお話しします。
FCR=摂餌量/魚体増重量・・(1)
これはFCRを求める基本式ですが、以前にもお話ししたようにプラクティカルには分子の摂餌量を給餌量にして、
FCR=給餌量/魚体増重量・・(2)
ただし、いずれの場合でも分子と分母の単位は同じ(例えばgとg、kgとkg、tとt)であり、したがってFCRは無次元数です。
さて、このFCR、飼料のタイプによっては水分含量が異なりますので同じ土俵での比較を可能にするため、しばしば摂餌量や給餌量をas is(そのまま)ベースから乾物(Dry Matter, DM)換算して計算する必要がでてきます。
FCR=給餌量(DM)/魚体増重量(as is)・・(3)
例えばここで、水槽AにはソフトタイプのEPを、水槽Bには通常タイプのEPをいずれもある期間中は出荷まで5,000 kg(as is)与え、また、それぞれのEPの水分含量が12%および8%(つまり、それぞれのDM含量は88% (100% – 12%)および92% (100% − 8%))だったとすると、
水槽AへのDM給餌量
5,000 kg×0.88=4,400 kg
水槽BへのDM給餌量
5,000 kg×0.92=4,600 kg
そして、その期間での魚体増重量が水槽Aで4,400 kg、水槽Bで4.600 kgであれば(つまり給餌量と魚体増重量が同じ)、それぞれの水槽でのFCRは、
水槽A
FCR=4,400 kg/4,400 kg=1.00
水槽B
FCR=4,600 kg/4,600 kg=1.00
このように、どちらも1.00で同じになります。うれしくなる数値ですね。
しかし、これらの結果から「この2つの水槽で飼料が魚体に転換される効率には差がなく同じであった」や「どちらの水槽でも与えた飼料は無駄なく魚に転換された」と言えるのでしょうか?
それぞれの水槽から出荷された魚について魚体の水分含量を測定したところ、水槽Aでは68%、水槽Bでは70%でした。つまりこれは、水分以外の成分(=DM)含量が水槽Aの魚で32%(100% – 68%)、水槽Bの魚で30%(100% – 70%)であり、したがって、水槽Aの魚には水槽Bの魚よりも相対値として2%(32% – 30%)多くのDMが含まれていたことを示しています。
一般的にFCRは(1)~(3)式のように魚体増重量を“as is”の値(湿重量と表現されることもあります)のままで計算していきますが、ここで、(3)式における分子の給餌量と同様に分母の魚体増重量をDMとして計算すると、
水槽A
FCR=4,400 kg/(4,400 kg×0.32)=3.13
水槽B
FCR=4,600 kg/(4,600 kg×0.30)=3.33
このFCRを乾物FCR(dry matter FCR, dmFCR)といって、今回の例では水槽Bよりも水槽AでdmFCRが0.20(3.33−3.13)低かったこと、つまり、水槽Aでは水槽Bよりも0.20 kg DM少ない飼料で1 kg DMの魚を生産できたことが分かります。
また、それぞれの水槽で魚の増重(1 kg DM)に貢献「しなかった」飼料の量は、
水槽A
3.13−1.00=2.13 kg DM飼料
水槽B
3.33−1.00=2.33 kg DM飼料
これらのことから、水槽Aでは水槽Bよりも少ないDM負荷で魚を生産することができました。もし、水槽Aと水槽Bで循環ろ過システムが独立しているのであれば、システムへのDM負荷に違いが生まれ、それぞれの電力や酸素消費量も影響を受けることでしょう。
しかし、一方で、どちらの水槽でも2 kg DM程度の飼料が魚の身にならずにシステムに消えて無駄になる事実は、飼料の魚への転換の究極的向上が持続性(サステナビリティ)の付与に必須であることを示しています。
dmFCR=給餌量(DM)/魚体総重量(DM)・・(4)
dmFCRは飼料の効率的な利用と飼育システムへの負荷の低減を考えるための有用な示唆を与えてくます。比較的簡易に適用できる小型の魚やエビなどとは異なり、サーモン/トラウトなどの大きい魚への実用には工夫を要しますが、養殖の効率化や持続性を考える上での含蓄に富む指標であることに違いないでしょう。
(1)~(3)式で表される一般的なFCRとdmFCRには関連性がありますので、これらのFCRを低く抑えることが飼料の効率的利用と飼育システムへの負荷低減につながりますが、そこにはdmFCRの抑制というバックグランドが存在するということを意識するだけでも一味違った運用につながるものと思われます。
ちなみに、FCRを指標に「飼料の魚への転換を究極的に向上する」にはどのような数値を目指せばいいのでしょうか?
水槽Bのケースを例にとるとdmFCRの理想値は水分含量8%(=92% DM)のEP飼料の全てが水分含量70%(=30% DM)の魚体に変換されるdmFCR=1.00ですので(4)式から、
1.00 DM給餌量/1.00 DM魚体増重量=1.00
これを、分母の魚体増重量がas isの(3)式のFCRに戻すと、
1.00 DM給餌量/(1.00/0.3) as is 魚体増重量=0.30
さらに、分子の給餌量もas isの(2)式のFCRに戻すと、
(1.00/0.92) as is 給餌量/(1.00/0.3) as is 魚体増重量=0.32
もちろん、これらを達成することは実際には不可能ですが、私たちが仕事をしている通常のFCRにはまだまだ改善の余地があると感じさせるに十分な数字ではないでしょうか?
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