人工種苗はかっこいい?

農林水産省が「農林水産研究イノベーション戦略2021」を策定して先週公表しました。『本戦略は農林水産分野に世界トップレベルのイノベーションを創出することを念頭に置いた「挑戦的な戦略」である』とのことで大きな話になるのも仕方がないのかもしれませんが、私が関係する水産養殖の分野についてだけみても、目標やその数値の選定/算出根拠に欠けているように感じます。例えば、『ニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人工種苗比率100%を実現』とのターゲットは我が国の水産養殖産業にとって良いことなのでしょうか?技術開発の継続と発展は必要ですが、種苗の100%を人工種苗でカバーすることが最重要の課題であるようには思えません。天然種苗を使用することはカッコが悪くて持続性が低いものなのでしょうか?むしろ、天然種苗資源をしっかりと科学的に管理しつつ使用して、人工種苗も併用していくことを日本の水産養殖の基盤にすべきではないのかと思います。天然種苗だけに頼っていると今期のブリ(モジャコ)のようなリスクを避けることはできず、また高成長や抗病性を目指す育種もできません。しかし一方で人工種苗だけに頼れば採卵・種苗生産の失敗や孵化場での事故で供給不全といったリスクが必ず付きまといます。比較的高度な技術と高いコスト(費用)が要求されるこれら魚種の孵化場が、そういったリスクをカバーできるほどの規模と数で運用されると考えるのは現実的ではありません。『持続性』をキーワードとして種苗(魚)だけのことを考え今回のようなターゲットと数値を設定したとすれば、『持続性はスペクトラムである』ことを忘れずにいてほしいものです。種苗(魚)の持続性、産業の持続性、学術(科学)の持続性:これらが途切れなく連続したものが『養殖の持続性』だと思います。「人工」は持続性の一部にすぎず、代表するものではありません。我が国における養殖をこの連続した3つのピラー(柱)でしっかりと支えていくことを目的にターゲットと数値を設定すべきではなかったのか?と感じています。

(註:100%人工種苗とは先に制定されている「みどりの食料システム戦略」のなかで定められられているものですが、これを達成するための「農林水産研究イノベーション戦略2021」ですのでここでは内容に区別なく感想しました。)

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