飼料製造のサイエンス
養殖場を訪問すると「エサ(飼料)って、原料を混ぜ合わせて機械に入れれば誰にでもできるんでしょう?」という感覚の飼育責任者や担当者にときどき出会うことがあります。確かに機械(エクストルーダー)に原料を入れないと製造できませんが、誰にでもできることではありません。そこにはオペレータの熟練した技術だけでなく、科学(サイエンス)が存在します。国内外問わず優れた飼育責任者/担当者は飼料製造の科学についても理解を深めようする姿勢が強く、概してそのようなスタッフがいる養魚場の魚の仕上がりには大変すばらしいものがあります。自分たちの魚を上手に育てるために役立つであろう知識や経験の引き出しを多く持っているのだと思います。
さて今回は、先日発行されたAquafeed magazineにEP飼料の可塑剤(plasticizer、プラスティサイザ)についての記事がありましたので、少し「可塑剤とは?」でお話をします。可塑剤と聞くと合成樹脂をイメージされる方が多いと思いますが、エクストルーダーで射出成形する養魚EP飼料にも利用されます。ただし、もちろんのこと、合成樹脂のように化成品は使いません。EP飼料の原料から可塑剤としての性質(能力)を引き出して利用するのです。可塑剤としての働きによって可塑性化(plasticized)されるとEP飼料の耐久性(durability、デュラビィティー)が向上します。手で撒くことがほとんどなく、機械で混ぜ・ポンプやブロアーで飛ばして給餌する現在では、物理的な観点からEP飼料に最も要求される特性です。可塑剤(水を除けば)としての性質を有するには、原料に比較的多くの水溶性タンパク質と低分子のペプチド・アミノ酸が含まれている必要があります。魚粉にはこのような性質がありますが、魚粉の種類によって性質の違いやばらつきがありますし、低魚粉飼料ではもともと低い魚粉含量のためにそれを求めることも難しくなります。特に低魚粉飼料では高配合される植物性タンパクによっても飼料の耐久性がさらに失われる傾向にあり、飼料の可塑性化に一層の工夫が必要になります。
この記事ではfish protein concentrate(FPC、魚濃縮タンパク)の可塑剤としての性能を明らかにしています。FPCであれば日本国内でも手配が比較的簡単な原料でしょう。日本で良く使用される他の原料とのコンビネーションを探ればブリやマダイだけでなく、今後広がるであろうRASでのサーモン・トラウト用の飼料(低魚粉が求められる)への応用も期待できます。消化性に関しても摂餌促進や消化酵素の誘導を通してプラスの作用をもたらすかもしれません。また、この記事ではFPCの配合がEP飼料の表面を滑らかにする可能性も指摘しています。可塑剤は耐久性だけでなく柔軟性も与えることから、EP飼料からの「粉」の発生の抑制にも効果が期待されます。さらに、「なるほど」と感じましたが、FPCでEP飼料製造時に添加する水(可塑剤として作用する)を部分代替できれば、ドライヤー(乾燥機)での乾燥に要するエネルギーを大きく減らすことができ、製造コストの低減や二酸化炭素の削減も望めそうです。
ちなみに、可塑剤とともにバインダー(binder)という用語・機能もあります。ここでは話を単純化するために区別せず「可塑剤」を代表させました。
Aquafeed vol 13 issue 2 2021
Aquafeed, by Aquafeed.com, is the magazine of the aquaculture feed value chain worldwide. The focus is on advances in feed formulation and processing for aquatic species.
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