養殖魚の福祉

養殖魚の「福祉」を尊重する動きが海外で加速しています。

養殖魚での福祉といえば他の動物の場合と同様に〆る(屠殺する)際には極力苦しめない方法で行うことや、生簀(水槽)内での個体密度を極力減らして飼育することなどが勧められており、最近では〆られるとき(前後を含め)の魚の生体反応、そして収容密度では体の外傷の程度や鰭の形状を利用してそれらを指標化し、福祉の度合いを評価する規則や基準が作られようとしています。

しかし、ブリやマダイなどにおいて国内にこのような動きがあるとは聞きません。日本の重要養殖魚種に関しては日本自らが先導して国際規則・基準の確立に貢献する研究を積極的に行い主張していかなければ、日本の養殖事情にそぐわない海外主導の規則・基準が導入されて、その対応に苦慮することになるでしょう。海外では国をはじめとする公的・半公的機関が強力に進めているこの分野、日本はどのように推進していくのでしょうか。

未だに「日本が養殖の最先端!日本独自の規則・基準で!」で、これまでと同じ轍を踏んでしまってはいけません。養殖というのは国が関わりガラパゴス化させてしまう分野ではないのです。また、「どんなに福祉を尊重しても最終的に殺すからなにをやっても同じでしょう?」と考えて好きにしてしまうと、動物を殺す過程が存在しない「培養肉・魚」に負けてしまいます。共存するには「最終的に殺すことになっても、~」と倫理的・科学的にエクスキューズできる福祉の規則・基準を作り上げていくことが大切です。

さて、疾病の管理も養殖魚の福祉に置いて重要視される項目です。例えばアトランティックサーモンではシーライス(ウミシラミ)の寄生による被害が大きな問題になっていますが、「寄生」されてしまうということも魚の福祉(生活の質)を低下させていると判断されます。さらに、寄生したシーライスの駆除を目指すにも、魚にかかるストレスを可能な限り低減することが魚の福祉を保つために求められますし、駆虫剤などの薬剤の使用もSDGsに関係する福祉の問題から急速に少なくなってきています。したがって、シーライスの駆除は古典的な投薬・薬浴の方法から極短時間での温水処理やクリーナーフィッシュの利用などへとシフトしてきていますが、これらにおいてさえ、処理に伴うストレスの低減やクリーナーフィッシュ自体に対する福祉の維持を考慮することが求められます。

そうしたなかで試されてきているのが、今回紹介するBlue Liceのテクノロジー、アトランの皮膚の光と匂いに対するシーライス幼生の嗜好性を利用した「罠(わな)」の開発です。水中灯の使用はシーライス幼生を集めることで感染圧力を高めてしまう逆効果も懸念されますが、これまで行われているフルスケールでの試験ではシーライス幼生の量を40%削減できた結果も得られているようです。この方法だけでシーライスの寄生を0(ゼロ)にすると考えているのではなく、併用することで感染圧が下がって温水処理の頻度が減るとともにクリーナーフィッシュの過労と寄生被害(クリーナーフィッシュもシーライスの寄生を受けることがあります)を防ぐことで、アトラン養殖全体の福祉を底上げすることを期待しているのでしょう。

今後でてくる成果に注目です。

https://www.bluelice.no/english


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