アスタキサンチンの薄れ

飼料には十分なアスタキサンチンが含まれているのに、どうして最近のアトランティックサーモンでは筋肉(フィレ)の赤味が薄くなってきているのでしょうか?ノルウェー海産物研究基金(FHF)からの予算でノルウェー食品・漁業・水産養殖研究所(Nofima)が主導する新たな研究プロジェクトが開始されました。

これまでにもサケ・マス類の筋肉の色素(主にアスタキサンチン)に影響を与える要因については種々の研究がなされており、例えば遺伝的系統、収穫(出荷)サイズ、飼料のω3脂肪酸などの関与が示されていますが、ノルェーのアトランティックサーモンを対象にしたNofimaによる一連の研究からは水温や疾病ストレスの影響と同時に、海産原料の配合量の低減化に伴って低下している飼料のリン脂質含量も大きな要因の一つであることが次のアウトプットとともに分かってきました。

・飼料のリン脂質含量が食餌性(飼料由来の)アスタキサンチンと脂質の消化率に影響を与え、また飼料のリン脂質が低すぎると魚の成長が緩やかになる。

・飼料に十分な魚粉が配合されていないと魚の食欲が低下し、腸での脂肪の蓄積が認められる。

・魚粉の配合量が低い飼料へのリン脂質の添加により、魚の消化率と成長が正常化する。

・腸への脂肪の蓄積は大豆由来のリン脂質を与えた魚よりも海産由来のリン脂質を与えた魚で少ない。

・しかし、筋肉(フィレ)の赤味は大豆由来のリン脂質を与えた魚で最も強い。

今回開始されたプロジェクトでは、これらの成果を掘り下げるかたちで魚体内でのアスタキサンチンの動態や各リン脂質の関りが検討されるとともに、飼料のビタミンAの影響や低酸素ストレスとの関連を調べ、また、細胞レベルでのアスタキサンチン取り込み、変換、蓄積のメカニズムについても遺伝編集技術を利用して解析していくようです。

アトランティックサーモンはアスタキサンチンを生合成しないため、商品価値となる筋肉(フィレ)の赤味を生み出す(色揚げ)には飼料(エサ)からアスタキサンチンを摂取させて筋肉(フィレ)に蓄積させる必要がありますが、筋肉(フィレ)へは飼料に含まれるアスタキサンチンの10%しか蓄積しません。これは消化吸収されるアスタキサンチンが飼料のアスタキサンチンの30~50%程度でしかなく、その上、体内で代謝、変換、分解されたり、体外へ排泄されたりして、筋肉への蓄積にまわるアスタキサンチンが少なくなってしまうことによります。筋肉自身のアスタキサンチン取り込み・蓄積能の影響も受けていることでしょう。

アスタキサンチンは最も高価な飼料原料の一つで、その飼料への添加量は飼料の価格、ひいては魚の生産コストに大きなインパクトを与えます。今では十分な筋肉(フィレ)の赤味を得るための飼料へのアスタキサンチン添加量は以前のほぼ2倍にまで高まっており、年間約2億ノルウェークローネ(1 NOK = 11円)の追加コストが発生しています。アスタキサンチンの摂取、消化吸収、代謝、蓄積の裏にあるメカニズムの一端が今回のプロジェクトで明らかになり、現在と将来のアトランティックサーモンの養殖にマッチするアスタキサンチンの効率的な利用につながることが期待されます。他のサケ・マス類にも応用できるかもしれないですね。

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