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6月, 2020の投稿を表示しています

展望:陸上サーモン養殖

日曜日の休みでゆっくりとサーモン陸上養殖についてのWebinarレコードをみました。Undercurrent Newsがもうすぐ発売予定のHandbookの宣伝もかねて先日行ったWebinarをYouTubeにアップロードしています。「Land-based salmon farming: Explosive growth through COVID-19 and beyond」となっていますが特にCOVID-19に絡めたものでもなく、陸上養殖に関する科学的・技術的現状と課題、その解決に向けた動きや投資条件とその方向性などが、研究者、投資会社、金融コンサルタントをパネルとして語られています。世界的にたくさんのRASプロジェクトが進んでいますが、今後これらのプロジェクトから本当に確実に成果が出てくるのかが注目されます。また、スモルトRASでは100gだったターゲットが500gの魚の生産へと変わってきています。なぜでしょう?BILLUND AQUACULTURE、AquaMaof、AKVA、VEOLIAという4強の競争状況はどうなっているのでしょうか?8F/Pure Salmonのポーランドの施設の存在意義は?Offshore、RAS、Flow-throughの共存・棲み分けは?RAS用の特殊飼料、出荷までの成熟制御、育種の状況、スラッジ処理の最新技術は?大型RASをコストエフェクティブに運用するには?水質・給餌の管理だけでなく、それらを予測してRASの運用に組み込むための自動化・ロボット化技術の開発状況は?コロナを経ても確固たる市場(需要)の存在/成長していくことには変わりないと考えています。投資と金融戦略、各国のサーモン陸上養殖への眼差しはどうなのでしょうか?中国政府のように強烈に参入をサポートする国がこれからでてくるのでしょうか?日本国内では議論されず知られないところですので、世界のサーモン陸上業界(一部スチールヘッドの話もあります)とそれを取り巻く環境を感じたい方には良い機会のWebinarだと思います。Webinarのイントロで使用されているプレゼンは次のURLから別途ダウンロードすることができます: https://mcusercontent.com/0835cc9ef5eca8d6b8c547f12/files/664a6e9a-7fc9-4936-9cee...

フィレ歩留り

先日の投稿 でフィレ歩留りでのeFCRを計算しましたが、そこで使用した65%はだいたいのところとして一般的に用いられている数字です。実際のフィレ歩留まりは事業者の飼育管理によっても異なりますし、加工技術の影響も受けます。また、フィレといっても加工の程度の違いによる種類があり、切り出した皮付きのフィレなのか、あるいは、そこかから鰭や骨なども除いた状態でのフィレなのかでも歩留まりの数字は変わってきます。皮付きのフィレでみると、実際には55~65%程度の間での変動があるようです。 ただバラツキがあるといっても、フィレ歩留りを把握して管理することの重要性は今後ますます大きくなっていくでしょう。例えば海外では小さなサイズから大きなサイズまでの需要があるトラウトでは500 gの魚でフィレ歩留りが52%程度、2 kgの魚では55%程度、3kgの魚では57%というように魚の成長によって変化します。 事業者は常にこのようなフィレ歩留りの変化と各サイズの魚の価格、需要、在庫(間引き含む)、eFCRを含むコスト評価指標などを擦り合わせて飼育・出荷計画を立てていきます。丸の魚の体重(サイズ)が大切なのはこれからも変わらないでしょうが、日本でも飼料、養殖、加工、小売りすべての段階でフィレ歩留りを考慮して事業を展開することが求められ、また必要になってきています。

様々な増肉係数(FCR)

水産養殖では様々な増肉係数(FCR)を用いて事業が管理されています。 FCR=摂餌量/魚体増重量・・(1) 先の投稿 で紹介しましたようにFCRは上の(1)式で算出されるのが一般的(基本式)ですが、例えば、これを次の(2)式のように変えて使用する場面もあります。 FCR=給餌量/出荷重量・・(2) これはいわゆる経済的増肉係数(economic FCR:eFCR)の一つで、分子の「給餌量」は食べこぼされた/残されたエサの重量を含む真の給餌重量、また分母は「出荷重量」ですので、死亡魚や取り揚げ~出荷までに選別された魚の重量を加えたり、池入れ時の魚やの重量を差し引いたりしていない売りが立った真の魚体重量です。つまり、このeFCRからは売り上げた魚に要したエサの量、すなわち事業経営上の重要な指標で次の(3)式から求められる真の飼料(増肉)コスト((feed cost of gain)を算出するための基になる情報が得ることになり、 飼料コスト(円/単位出荷重量)=eFCR×飼料単価(円/単位飼料量)・・(3) これにより、飼料を上手に使って魚を丁寧に生産できたのか?という事業での飼育管理(husbandry management)能力をマクロな視点から評価することが可能になります。よくFCRというと飼料の性能と捉えて語られることがありますが、(2)式の「給餌量」や「出荷重量」が飼育管理のなかで発生する 様々なパラメータ の関数であることを理解している事業者は冷静です。 ちなみに、『アトランティックサーモンのFCRは何々』と言われることがありますが、多くはeFCRの数値に基づきます。また、先に(2)式をeFCRの「一つ」と紹介しました。例えば、ノルウェーでは飼料原料162万トンを使用した年に125万トンのアトランが生産されましたので、 eFCR=162/125=1.30・・(4) また、(4)式での飼料原料はas-is basis(現状そのまま)ですので飼料原料を乾物換算した152万トンでは、 eFCR=152/125=1.22・・(5) 一方、125万トンの魚は商取引登録された配合飼料が154万トンであった年に生産されましたので、 eFCR=154/125=1.23・・(6) になりますし、アトランはブリやマダイのように「丸(全魚体:whole fish)」で売られることは...

用語:「飼料効率」は「飼料転換効率」

先日の投稿での「飼料効率」は「飼料転換効率」と同じでしょうか?ということで確認を受けましたが、答えは「その通り」です。日本水産学会のweb版新・英和和英水産学用語辞典(http://www.jsfs.jp/d-dic/)でも「飼料効率」、「飼料転換効率」の両方の記載があります。昔はエサを表すために「飼料」ではなく「餌料」という言葉を使って「餌料効率」や「「餌料転換効率」とも言っていたのですが、もはやこれらの語句は学会のweb辞典に掲載されていません。これはおそらく、「餌料」が生餌を連想させるのに対し、「飼料」からは配合飼料を連想しやすいことに原因したものと思われます。生餌から配合飼料への転換が進むなかで学術用語も代替わりしたのでしょう。ちなみに、漢字の「飼」は食べ物を与えてやしなうという意味で、「餌」のように動物を育てるためのエサという意味はないようですが、「料」(もとになるものの意味)と連なることでエサの意味を持つようです。ついでに調べてみると「増肉係数」も学会web辞典にちゃんと掲載されていましたが、英語ではfeed gain ratioともいうようです(おそらく、feedとgainの間に「:」を入れたほうがいいのかもしれません)。 Web版 新・英和和英水産学用語辞典

世界海洋デーとEPA、DHA

今日は世界海洋デーということですので、雑誌Nature Foodの報告をご紹介いたします。 オメガ3脂肪酸のEPAとDHAは人の健康や脳の発達に欠かせない栄養素であり、世界におけるヒト(人間)への年間必要量は140万トン、一人当たりの日間必要量は500mgとされていますが、現状では年間42万トン、一人あたりでは日間150mgしか供給できていないようです。つまり、年間必要量では100万トン、一人当たりの日間必要量では350mgのEPA+DHAの供給が不足している深刻なギャップが存在していることになります。 このギャップはどのようにして埋めていくことができるのでしょうか? 水産養殖はEPA+DHAを消費する産業として考えられてきましたが、この報告によって水産養殖はEPA+DHA供給の貢献者であることが説明されました。発生を抑制することが可能である食料廃棄物(avoidable food waste)や必ず発生する食料廃棄物(unavoidable food waste)の削減、またそれらバイプロダクト(by-product)の魚粉・魚油製造への利用など挑戦的な課題を解決していくことがEPA+DHA供給者としての水産養殖の地位をさらに高めるためには大切とのこと。EPAやDHAを含有する代替タンパク質や代替油脂の活用を探るだけではなく、足元を見つめ直していく必要もありそうです。 報告は海洋で生み出されるEPA+DHAが漁獲物を経てヒトいたるまでの経路を整理して、バランス(収支)とともに定量化しグラフ化しています。また、各産業における魚粉、魚油の消費量や水産養殖および漁業由来のバイプロダクトの地域別発生量のグラフなどとても見やすく作られていますので、興味のある方は是非ご覧ください Systems approach to quantify the global omega-3 fatty acid cycle - Nature Food Omega-3 fatty acids are important for the human diet and for some aqua and animal feeds. This study reports a supply gap, and using quantitative systems analysis identifies...

飼料効率と増肉係数

飼料効率と増肉係数について聞かれることが度々あります。馴染みがなければよく分からない指標ですので疑問に思われるのも当然だと思います。興味ある方々への参考になればと思い、ここに簡単に説明します。平易にしておりますので専門的には少しズレているところがありますが、そこはご容赦ください。 飼料効率(%)=100×魚体増重量/摂餌(or 給餌)量 増肉係数(無次元数で単位無し)=摂餌(or 給餌)量/魚体増重量 で算出され、いずれも飼育(養殖)成績を評価するための指標して利用されます(ただし、魚体増重量は湿物重量;摂餌(or 給餌)量は乾物重量を使用して計算)。 それぞれが逆数の関係で、飼料効率はエサ(飼料)の何%が魚の体になったのかを示すのに対し、増肉係数は魚が1kg体をつくるために必要としたエサ(飼料)の量を示しています。個人差はありますが、飼料効率からはエサ(飼料)のパワーを感じ、増肉係数からは魚に使ったお金(飼料=コスト)を感じる人が多いのではないでしょうか。 どちらの指標を使うのかは目的によるものの、一般的には研究分野で飼料効率が使われ、養殖プラクティスには増肉係数が好まれる傾向にあります。もちろん、両方のパラメーターを使ってもかまいません。ただし、飼料効率は「上がる」と成績の向上を意味しますが、増肉係数の「上がる」は成績の悪化を示しますので、これらの指標を利用する際の言葉の選択には気を付ける必要があります。増肉係数で好成績を伝えるには、増肉係数が「下がる/落ちる」ことが必要で、「対照区よりも低かった」などのように説明しなければなりません。 また、どちらの指標も他のファクターの影響を受けることを知っておく必要があります。例えば、魚の成長(大きさ)はその代表的なもので、飼料効率は魚の成長に伴って低下し、逆に増肉係数は増加します。したがって、成長した魚で増肉係数が2.0近くかそれ以上ということはよくあることですが(サーモン・トラウトを除く)、稚魚でそのような数字がでることはまれです。稚魚では増肉係数は1.0近くかそれ以下、飼料効率で表すと100%近くかそれ以上になるのが普通です。通常の養成や試験研究において稚魚での増肉係数が2.0付近(飼料効率で50%付近)の成績が出ている場合には、魚の状態やエサ(飼料)に疑いがあり、そこから得られたデータには正確性や信頼性がないと判断...