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記事「様々な増肉係数(FCR)」についての補足説明

以前紹介した増肉係数(FCR)についての 記事 において、『ノルウェーでは飼料原料162万トンを使用した年に125万トンのアトランが生産されましたので、eFCR=162/125=1.30』と述べています。それをお読みいただいた方から、『アトランは数年かけて(出荷サイズにまで)育つので、ある「年」の一年のみに使用された飼料原料の量をFCRの計算に使うことには無理があるのでは?』との問い合わせをいただきました。 ご指摘の通り、確かに無理はあるのですが、時間をかけて育つ魚の稚魚から成魚(出荷サイズ)までに与えた飼料の原料の量を動的に記録することは大変難しいことですし、飼料メーカーや生産者(需要家)によるバリエーションが大きい飼料の種類や供給・使用量を把握することにも厳しいものがあります(少なくとも現時点では)。 このような事情もあって、魚の生産量(=飼料の使用量)が比較的安定して推移するノルウェーのアトランのようなケースでは、先の記事で紹介したような「ざっくり」とした計算で産業向けにFCRを求めることが度々あり、同じような疑問をお持ちの方もおられるかもしれませんので、ここでも回答を紹介させていただきました。 このようなFCRを、パラメータを定義した上で、「見かけのFCR(apparent FCR)」とも呼ぶことがあり、また、実際にノルウェーの国家統計でもこのFCRの数字が使用されています。

養殖の資産価値の評価

養殖における資産価値の評価は、生簀内のバイオマス(biomass:尾数×魚体重)をいかに正確に求められるのかにかかっています。魚体重を推定するこのようなシステムの完成度はかなり高いものになってきていますが、尾数を求めるものの開発はすごく遅れているのが現状です。水中を早く泳ぐ動物であるという特性と、そのような魚を生簀の中にたくさん持つという養殖の特性によるものですが、この「尾数」を評価できるシステムができれば、国内だけでなく世界中でかなりのビジネスになるはずです。今回のプロジェクトでもぜひ挑戦していただきたいですね。 シーエーシー「魚体鑑定システム」実証 養殖いけす 丸ごと算定 システム開発のシーエーシー(東京・中央)は、長崎県の地方銀行や大学と、養殖いけすから出さずに高級魚の資産価値を丸ごと算定できるシステムを使った動産担保融資(ABL)の仕組みづくりに乗り出した。同社の画像認識技術などを活用しており、養殖事業者が資金を調達しやすくするのが狙い。同社などは燃料コストや飼料代の高騰などの課題に直面する水産業の成長をサポートする。

エクアドル:エビ養殖のこれから

The Fish Site掲載のエビ養殖産業界のベテラン、ロビンズ・マッキントッシュによるコラム(オピニオン)で、エクアドルのエビ養殖の歴史と現在について解説し、こらからの方向性について提言しています。 Low stocking density (低収容密度)やall pathogen exposure(APE:全病原体暴露)といった用語で良く説明された「穏やか」なエクアドルのエビ養殖にもtechnification(技術化)やintensification(集約化)が徐々に進んできているものの、しかし、今後はこれをエクアドルにあったものに最適化していく重要性を語っています。 エクアドルでも技術化と集約化が進むのは予てから私たちの間でも予想はされていましたが、東南アジアの経験を参考にしつつ、エクアドルにあった方法を見つけていくべきだという点には共感します。 東南アジアは東南アジア、エクアドルはエクアドルといったように、ある意味別々の養殖体系を上手く保っていくことが、ひいては世界のエビ養殖の継続した繁栄にもつながっていくのかもしれません。東南アジアでは新たなチャレンジを進める動きもあり注目が必要です。 また、なにを養殖するにも、どこで養殖するにも、重要なことは養殖というものの基本の尊重であることも、このコラムは思い出させてくれます。適用するシステムや技術はデフレ的であるべきだし、環境には水質的にも微生物的にも限界があることを知って収容密度を調整すべきだし、栄養的にも機能的にも優れた飼料(餌)を与えるべきであるし、目的にかなった観点から育種された種苗を使うべきであり、市場(マーケット)の形成にも自ら積極的に関わるべきことが求められます。 The perils of overintensification in shrimp farming While the slow intensification of shrimp farming appears to be working in Latin America, Ecuadorian producers should be wary of the Asian example, where even heav...

酸素飽和度

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海水中の酸素飽和度計算 酸素飽和度の計算ツール 測定したDO (mg/L): 測定した水温 (℃): 測定した塩分 (‰): 結果: 実測DOの飽和度 : 飽和度100%の時のDO: (2023.12.04作成) 解説 水中の溶存酸素量は魚の成長や健康に大きな影響を与える重要なファクターの一つです。 一般的には「濃度」(単位:mg/Lあるいはml/L)として測定・記録されることが多いのですが、養殖の分野では飽和度(単位:%)にも注意が払われています。 水に溶け込むことができる酸素の量は主にその時の水温と塩分に左右され、水温が高いほど、また、塩分が高いほど酸素は水に溶け込みにくくなり、逆に、水温、塩分が低いほど酸素が水に溶け込める量は多くなります。 しかし、例えば、水温28℃、塩分35で濃度が5.2 mg/Lの時と、水温16℃、塩分33で濃度が5.2 mg/Lの時で、魚をとりまくの水中の酸素の状況は同じなのでしょうか?溶存酸素濃度はどちらも5.2 mg/Lです。 飽和度は水に溶け込むことができる酸素の最大量に対して、今その水にどの程度の酸素が存在しているのかを「割合」で示してくれます。水温や塩分を考慮に入れて正規化されているため、平たくは、水温や塩分にかかわらず、今その水の酸素の存在量が魚にとってどれだけの余裕(アベイラビリティ)があるものなのか?といった、養殖には必要不可欠な情報を直感的に理解できる形で知らせてくれる便利な指標ともいえます。 私たちが対象としている魚は普段は少なくとも飽和度80%以上の海水を泳いでいる動物です。陸上の水槽では純酸素などを利用して飽和度90%以上を常時確保しますが、生簀などフィールドの施設ではそういうわけにもいきません。 明確な基準ではありませんが、何らかの理由(プランクトンの増殖や水層の混合など)で溶存酸素が低下して飽和度が60%程度に近付くと、魚の酸素消費量の増加をもたらす作業(オペレーション)にはそれまで以上の注意が必要になってきます。60%を...

Behavioral fever:疾病に対抗する変温動物の特性

前にも触れたトピックスですが、魚介類の養殖において疾病のインパクトを軽減する方法の一つに温度処理(療法)があります。多くは水温を高める高温処理で、状況により異なりますが、数℃~5,6℃の範囲で水を全体的あるいは部分的に加温する方法が一般的です。では、なぜ水温を上げることが効果的なのでしょうか? この論文では、エビにとって致命的なホワイトスポット病(ウィルス性疾病)に感染させたバナメイを、適水温で27℃一定の4つの区画を持つ水槽(区画は連結されておりエビが自由に行き来できる)あるいは同一タイプの水槽でそれぞれの区画の水温を27、29、31および33℃の順に設定した水槽に収容したところ、前者ではほぼ全滅(斃死率約90%)したのに対して、バナメイが高温側の区画へと自ら移動できた後者では斃死率が約30%に抑えられました。つまり、バナメイは自らを高温にさらすことで、この疾病に対抗する手段を持っていることになります。 動物、特に変温動物が感染症や環境ストレスに対抗するために能動的かつ積極的に高温な環境へ移動して体温を上昇させることを「behavioral fever*」と呼ぶそうです。その発現(発動)のメカニズムの解明についてはまだこれからのようですが、このような、動物本来の特性(nature)を活かして疾病に対抗することができれば、養殖の技術や産業の持続性もより高まるのではないでしょうか。 今回のバナメイの例では、高温によってウィルス(のDNA)複製が阻害されることが斃死を抑えた主な要因と考えていますが、データからはそれだけでは説明しきれない要因も感じられます。他の疾病や魚介類での研究も期待されますね。 *日本語では正式な学術用語がないようですが、「行動性発熱」や「行動性獲得熱」などと言えるのかもしれません。 Shrimp (Penaeus vannamei) survive white spot syndrome virus infection by behavioral fever Both endotherms and ectotherms may raise their body temperature to limit pathogen infectio...

新たな取り組み:人工種苗クロマグロ養殖 in 高知

高知県では2019年まで官民共同でクロマグロ人工種苗の生産・育成事業に取り組んでいましたが、財政難と人工種苗の不人気で終了となっていました( ブログ記事 )。今回は新たな座組でのスタートになり、種苗は他県(沖縄)の会社から購入するようです。人工種苗の生産と中間育成といった比較的コストがかかりリスクも高いところを専門の企業にまかせるといった点で前回のケースより新しく、ビジネスとしての効率性も高まるように感じます。大きな種苗を運搬するには尾数に制限がかかるなどの難しさもあるでしょうが、人工種苗を生産・育成する技術の維持・発展にも大いに寄与するものと期待されます。 高知銀行や水産会社など、クロマグロの完全養殖で協定 高知銀行や養殖会社などは20日、人工種苗によるクロマグロ養殖事業について連携協定式を開いた。天然資源を守り、SDGs(持続可能な開発目標)にもつながる完全養殖に協力して取り組み、ビジネスモデルを構築する。養殖する高知県宿毛湾地域の活性化にもつなげる。

福島原発 処理水放出:学術界のアクション

出張を重ねている間に処理水放出とその水産物輸出への影響に関する報道が増えてきました。目に見えない放射能(放射性物質)について心配するのは至極当然(自然)のことであり、それに対して日本は積極的で透明かつ正確な情報の提供を通して、世界の理解を得ていく必要があります。 しかし、信頼性をさらに高めるには、国政府だけではなく、学術界からの活動(アクション)も欠かせなくなってきているはずなのに、私の知る限りでは、処理水放出に対して反対や憂慮する声明はだされているものの、擁護あるいは、少なくとも、今回の措置の妥当性を説明しているところは見当たりません。 中国による日本からの水産物全面禁輸の措置による水産業界のダメージは深刻です。中国のような極端な反応でなくとも、日本の水産物の安全性を心配している国(人々)は多くあります。日本国内でもそうでしょう。意見の取りまとめの難しさは容易に想像できますが、水産という産業で学術している科学者には、その産業を科学的にサポートするための能動的なアクションが求められます。 水産物の輸出拡大策に逆風 処理水で中国が全面禁輸 福島第1原子力発電所の処理水放出を受け、中国が日本産の水産物輸入を全面的に停止すると発表した。日本産農林水産品の輸出先のうち4割を占める中国や香港は輸入規制を強めてきたため、すでに水産物の価格に影響が出ている。農林水産品の輸出拡大をめざす日本の戦略に逆風となる。