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5月, 2022の投稿を表示しています

ゴキブリでの研究-エビとカニの遺伝子編集に応用可能か?

昆虫での話ですが、遺伝子編集を行うための材料(Cas9とRNA)を成虫(メス)に注射するだけで高効率に遺伝子編集可能なことを発見・開発したというニュースです。 昆虫の循環系が「開放系」であることが重要な要因の一つのようですが、それを聞いて「エビやカニの遺伝子編集にも使えるかも?」と思っているのは私だけではないでしょう。 例えば魚(マダイ)の場合は先ず卵に直接注入することで遺伝子編集を進めますが、昆虫(今回の場合はゴキブリ)では卵が硬い殻に覆われているため魚の場合のような注入方法は適用できませんでした。 エビやカニの卵はゴキブリのものとは違うものの、マダイの卵よりはかなり小さく硬いですし、ゴキブリの場合のように親エビや親ガニに注射できるとなると、一つ一つの卵に注入するよりも極めて効率的に多くの卵(稚エビ、稚ガニ)に処理が施せます。 開発に携わった研究者曰く、『私たちが開発したこのゲノム編集法は、本当に驚くほど簡単です(虫たちの方が驚いているかもしれません)。』 エビやカニでもこの技術を適用できるのであれば、遺伝子編集研究とそのエビ・カニ養殖産業への応用が一気に進むものと思われます。楽しみですね! 詳しい研究の内容について: 昆虫ゲノム編集のあたらしい形―成虫注射で「難敵」撃破― https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-05/220517_daimon-a4427beee3a93748b16d1838ae993bb1.pdf 論文DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.crmeth.2022.100215 昆虫を注射1本でゲノム編集 安価・容易に品種改良 京都大学の大門高明教授らは遺伝子を効率よく改変するゲノム編集を昆虫に簡単にできる技術を開発した。卵を産む前の成虫に注射をするだけですみ、高価な装置や長期間の訓練などは不要だ。ほとんどの昆虫種に適応できるという。昆虫食といった産業への利用や病原体を媒介しないようにして感染症の流行を抑えるといった応用が期待できるという。スペインの進化生物学研究所との共同研究で、17日に米科学誌に論文が掲載された。

陸上養殖事業へ参入するには

サーモンやトラウトの陸上養殖事業への参入を検討されるケースが国内で増えています。 SDGsにミートする魅力ある事業だと感じられていることもあるのだと思いますが、現時点ではまだまだ実証と収益性に乏しい事業であるとの認識を持って参入の是非を検討すべきでしょう。初期から中期にかけて確実に発生する損失をカバーし続けられるほどの補助金や本業あるいは親会社の体力(稼ぎ)がなければ、また、そのようなことが理解される/許される環境になければ極めて難しいと言わざるを得ません。 「海外では事業化されているよね」と言われるかもしれません。しかし、彼らの資本、ビジネスモデル、テクノロジー、生産規模、歴史は日本のものとは全く異なっており、そのため直接的に比較することはできませんし、また、海外でも単独では高度な収益性をもって事業化されている例はないのが事実です。 日本では端境期にあたる高水温期での生産や、輸入に由来するカーボンフットプリントの低減、区画漁業権の確保に要する複雑なネゴの回避といったところでのアドバンテージがあるかもしれませんが、これらが海面養殖や輸入よりも収益性のある事業化にどれほどつながり有利に働くのかについて相当慎重に検討する必要があります。 ブランド化などでプレミアムな販売価格を設定できるでしょうか?海面よりも陸上で養殖される魚のほうが安全・安心でしょうか?陸上養殖は海面養殖よりも本当に環境にやさしいのでしょうか?このような「今さら?」と思われることに関しても十分に理解することが大切です。 サーモン陸上養殖事業への参入について | RKBオンライン

代替原料からの脱却

魚粉の代替タンパクである大豆がタイトになり、魚粉が大豆の代替タンパクになるような勢いでしたが、このように魚粉と大豆の両方がタイトになる時代にあって、代替タンパクとうい言葉(もの)自体に意味がなくなってきたように感じます。これからの時代、何を何で代替するということではなく、どのタンパク源、どの油脂源であっても、飼料(エサ)というパズルを完成するために不可欠な一つ一つのピースであると認識することが大切です。そして、これらのピースには決まった形はなく、それぞれのピースには互いに様々に組み合わさってパズルを完成させるポテンシャルとフレキシビリティーがあって、これらの点を的確に描き出せる基礎研究の重要性が益々高まってくるでしょう。 過去のブログ「 養魚飼料原料としての大豆 」、「 飼料原料のフレキシビリティ 」などもご参考ください。 魚粉の国際価格が4年ぶり高値 中国で需要増 養殖魚のエサとなる魚粉の国際価格が4年ぶりの高値をつけている。割安な飼料原料である大豆かすの価格が中国で高騰し、魚粉の需要が伸びた。原料となるカタクチイワシの漁期が、資源保護のために中断する可能性も意識されている。日本の輸入価格は円安や海上運賃高騰の影響も受ける。クロマグロやブリの養殖コスト増加は必至だ。4月時点のペルー産魚粉の国際価格は、日本で使う上級品が1トン1800ドル前後。2021年夏

魚のお腹の中の可視化

 X線を利用して内部の微細構造を画像化するトモグラフィーという断層撮影技術があるそうです。ハイテクすぎて技術の内容については???ですが、その技術を応用することで養魚飼料の内部構造や、摂取された飼料の魚体内通過/消化過程を臓器とともに詳細に可視化し、飼料製造や摂餌/消化生理、そしてそれらのinteractionを研究するためのツールとしようという試みが行われています。技術の洗練化にはまだ時間が必要でしょうが、製造条件や原料の異なる飼料の魚体内での動向を目で確認しながらディスカッションできることを考えると、、、、これはかなりエキサイティングなツールになるのではないでしょうか。YouTubeでも公開されている撮影画像は圧巻(?)で、そう期待することに間違いはなさそうです。デンマークの研究機関のDanish Technological Instituteと飼料メーカーのBiomarとの共同研究で、DTIのweb pageにプロジェクトの概要があります。今回の投稿のブログカードはYouTubeですが、DTIのweb pageのURLも紹介しておきますのでご参考ください。 DTIのweb page https://www.dti.dk/synchrotron-imaging-of-low-density-materials/43911 X-ray imaging of a small fish (synchrotron, phase contrast) In collaboration with Danish company Biomar, Danish Technological Institute has investigated batches of small fish after being fed with different experimenta...

ISFNFとコロナと若い人

6月にイタリア・ソレントで開催される 第20回ISFNF (XX INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON FISH NUTRITION AND FEEDING)の プログラム が公開されました。生理と栄養要求のセッションが2つ、育種と仔稚魚栄養のセッションが2つ、飼料添加物と機能性飼料のセッションが2つ、栄養学的給餌戦略のセッションが2つ、栄養と魚類健康のセッションが2つ、飼料製造と養殖生産物の品質のセッションが1つというようななかで、代替タンパク源と代替脂質源については比較的多い3つのセッションで構成されています。演題をみますと現在の潮流をダイレクトに反映して、養殖副産物由来の油脂の利用性、微細藻類油脂による魚油の完全代替、昆虫ミールと油脂、そしてその昆虫のエサや、酵母タンパク、陸上動物タンパクなどに関する発表であり、もはや大豆、トウモロコシ、小麦など植物性タンパクのお話はほとんどでてきません。自国での養殖のエサ(の原料)は自国で賄うという急激な流れの一端でもあり、世代の差を感じている時ではないということなのだと思います。 一方で別の観点から気になるのは、日本からの参加者がみあたらない点です(プログラム上では発表者の氏名でしか判断ないのですが)。大学や公的機関の教員、職員もそうなのですが、それよりもむしろ、院生、博士研究員、企業のなどの若い人がこのような場に来ることができなくなっていることが心配で、日本における魚類栄養・飼料の研究分野の将来を考えればかなり痛いように感じます。おそらくコロナの関係で仕方がないところもあったのでしょうが、ルールを守りさえすればおおよそ自由に海外渡航ができるのが現状ですし、これは誰もがやっていることでもあって、もちろん若い人達も充分に大人なので出来る(ように努めなければならない)はずです。そこでの彼女/彼らの経験と、そこで築いた人とのつながりが、10年後のあなたの会社、機関、大学の発展と、そしてもちろん彼女/彼ら自身に必ず活きると断言できます。ですので、誤解を恐れずに言えば、「コロナだからやめろ」というようなことではなく、abstractは締め切っていますので発表は無理なのですが、「せめて参加するだけでも」と思っている若い人がいるのであれば、ぜひ行かせてあげましょう。彼ら/彼女ら自身の研究・勉強人生でもあります。 大...