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10月, 2021の投稿を表示しています

養殖と養魚飼料のバージョンアップ

出荷前の半年を無魚粉化した飼料で仕上げる取り組み、とても興味深いですね。低(無)魚粉飼料の給餌は魚粉が多い一般的な飼料の給餌とは異なるストラテジーが必要なので、大変工夫されているのだと思います。ウミトロンさんとも協働されていましたので、これまでに築かれた技術にIoTやAIをうまく組み合わされて対応されているのかもしれません。 そして、工夫されているのはそのような精密給餌についてだけではないでしょう。飼料の詳しい内容は書かれていませんが、記事を読む限りはタンパク源をすべて植物性のもので代替されているようです。マダイの飼料のエネルギー密度はそれほど高くありませんので配合にもある程度の余裕を持たせやすいのですが、出荷に向けて魚を仕上げる大切な期間のタンパク源を植物性原料だけに頼るのですから飼料の配合設計にも従来とは異なる工夫が施されているのだと思います。 Colombo and Turchini (2021) を参考にすると養魚飼料は魚粉ベースのAquafeed 1.0から植物性原料を利用するAquafeed 2.0へバージョンアップし、現在では地域性を重視したサーキュラー・バイオエコノミー(circular bioeconomy)を活用するAquafeed 3.0へと進化しようとしています。日本で最初にその領域にチャレンジして到達するのも赤坂さんのような真面目で好奇心がある規格外な養魚家なのでしょうね。そのような養魚家には優れた協力者も自然と集まります。 * Colombo, Stefanie M. and Turchini, Giovanni M. (2021) ‘Aquafeed 3.0’: creating a more resilient aquaculture industry with a circular bioeconomy framework. Reviews in Aquaculture 13: 1 – 3. https://doi.org/10.1111/raq.12567 愛媛の赤坂水産、菜食マダイで挑む養殖業界「2つの壁」 マダイなどの養殖を手がける赤坂水産(愛媛県西予市)は、育成過程の一部で魚粉を使わない飼料を与えるブランドマダイの販売を始める。養殖業界では海外市場を中心に環境に配慮した食材への関心が高まっているほか、飼料の高騰リスクへの対...

飼料配合アプリ:FeedCaluculator

オランダの社会的企業Single Spark The Netherlandsが専門家たちと共同開発したFeedCaluculatorというスマートフォン(android)アプリがあります。発展途上国における畜産/水産の発展を飼料の配合設計の最適化という面から支援することをコンセプトとして開発された大変ユニークなアプリで、ブロイラー(肉)、レイヤー(卵)、ブタ、ウシ(乳)と魚ではナマズ、ティラピアの飼料配合設計に対応しています。 例えばナマズを選ぶと稚魚(starter)か育成(grower)を聞かれ、稚魚を選択すると今度は魚の尾数を聞かれます。次に飼料原料を選択するページに移り、そこで各原料の価格を入力するとともに、現時点で使用可能(手元にある/入手できる、つまりavailable)な原料をすべて選択します。原料は配合する配合しないに関わらずavailableなものであれば全て選びます。そして実行ボタン(SHOW RECIPE)を押すと、粗タンパク質(CP)39%、エネルギー3,500 kcal/kgのスタンダード飼料を作るために最適化された配合組成と飼料価格が表示されます。最低コストで最高の飼料を!ですね。実際にアプリを走らせながらこの記事を書いていますが、タンパク源としてFish meal 56%CP、soybean cake 44% CP、soybean meal std 43% CPを選んできています。Bool meal 80% CPもavailableな原料として選択していましたが、このような配合スペースに余裕がある飼料では価格の面からかはじかれたようです。画面の下には設計された飼料の栄養素プロファイルや魚の成長に合わせた給餌スケジュールを確認するメニューがあり、また、配合は画像として保存できるのでそのまま配合指示書になります。 以前は有料だったようですが今は完全無料のアプリです。アプリからは新規の原料を登録することができない(随時追加の予定とのことですが)、原料の細かな栄養素プロファイルを見ることができない、アルゴリズムが非公開などの制限がありますが、このような形での途上国支援を思いつき、具体化し、実行できるのは素直にすごいと思います。魚種は限られますが大学の初歩的な教材としても良いでしょうね。ニワトリ、ブタ、ウシについて私は全くわかりませんが、ナマズと...

魚飼いチャンネル

マレーシア・サバ大学ボルネオ海洋研究所/近畿大学・サバ大学養殖開発センターの瀬尾重治先生の「魚飼いチャンネル」、今日の時点で105の講義がアップされています。30年以上の海外生活で常に自ら魚をつくり育てきた経験と実績に裏打ちされた講義は私たちにさえ新鮮さと刺激を与えるだけでなく、魚好きな小中高校生にも将来の自分を思う「何か」をくれているように感じます。もちろん大学生・院生さんたちにも大変いい機会でしょう。今の日本の大学でこのような講義やゼミをできる先生はなかなかいませんから。相当マニアな講義内容なので全体的に視聴回数は多くありませんが、エアレーションに関する講義動画の視聴回数が飛び抜けて多いのは面白いですね。魚を飼う際のエアレーションの重要性、盲点、意外な点を教えてくれます。現地マレーシアの学生さんにもインターネットを通してリアルタイムの講義を続けられているとのこと。現地の入国制限が解けてマレーシアに帰られても「魚飼いチャンネル」は継続してほしいですね。 【魚飼いチャンネル】 一般社団法人 備讃瀬戸漁業資源研究所 このチャンネルは、備讃瀬戸の地魚(漁業資源)を復活させたい人たちの集まりです。備讃瀬戸(岡山県倉敷市児島)出身の瀬尾重治教授の技術と経験を【魚飼いチャンネル】として紹介させてもらっています。

コオロギと魚

 養魚飼料原料としての昆虫の利用性。日本ではポツポツと話を聞く程度で、どのぐらいの熱量で検討されているのか良く分からないのが現状ですが、これまで水産養殖とは直接的なつながりがなかった大学でも研究が活発化してきているようです。 ニジマスやビワマスにコオロギ。子供のころにコオロギを餌にアマゴを釣ったことを憶えています。ナマズもよく釣れましたので肉食性の淡水魚には良い餌生物なのでしょう。しかし、自然界で魚はコオロギだけを食べているわけでなく、魚が毎日食べる(魚に毎日食べさす)養魚用飼料に組み込む場合には他の代替原料の場合と同様に原料間/栄養バランスを上手くとっていくことが重要になります。 また、パワーが発揮するポイントは成長ではなく、免疫や摂餌性/消化率といった機能性である可能性もあります。大学も認識しているように、それぞれの原料が持つパワーは何か?研究を通して見極めることがこのような新規代替原料の発掘/開発には必要で、どのような結果がでてくるのか楽しみです。 魚粉の代替というと数十%の大きな配合率を狙いがちですが、その原料のパワーは数%の配合率で発揮されるかもしれません。数%でも飼料に配合される(できる)環境的/産業的インパクトを過少に考える必要はありません。 そして「魚粉」については、ペルーやヨーロッパに代表される高級魚粉が日本に入ってこない近い将来を研究計画に入れ込むことも望まれます。そのような魚粉の代替を考える重要性は薄れ始めてきており、大豆、コーン、小麦の代替を考えるべき時代へとすでに突入しているのですから。 https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20211005/2000052167.html(リンクが切れていますが残しておきます)

INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON FISH NUTRITION AND FEEDING

INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON FISH NUTRITION AND FEEDING 韓国・プサンで予定されている 第19回2020年大会 がコロナのため今年の12月に延期になっているなか、 第20回2021年大会 が6月にイタリア・ソレントで開催されることが決まったようです。韓国での再延期はなく、2022年はイタリアに当番が移るということでしょう。基本的に2年に1度開かれる大会で、科学・学術色が強く大学や公的機関の研究者メインのものというイメージを持たれる方も多いようですが、産業的にも意義のある研究発表も多く、また実際のところ産業界からの参加者も多い大会でもあります。「FISH NUTRITION AND FEEDING(魚類栄養と給餌)」というシンプルな大会名ですが、扱われるトピックスはwebページに掲載されているパンフレットのリスト(下記)にあるように重要な分野をカバーしています。もちろんエビについても多く扱われるでしょう。来年はwithコロナが進んで日本からも多くの方が参加されればと思っています。 ・生理および栄養要求 ・飼料代替タンパク源 ・飼料代替脂質(油脂)源 ・飼料添加物および機能性飼料 ・栄養と健康 ・栄養と育種 ・飼料製造技術と飼料原料 ・栄養と給餌戦略の実用的運用 ・栄養学的モデルと精密給餌 ・栄養と製品の質 ・仔稚魚の栄養と給餌