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資源であるためには:種苗と餌飼料

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農林水産省の“ みどりの食品システム戦略本部 ”は2050年の目標(水産養殖分野)として「ニホンウナギ、クロマグロ、ブリ、カンパチの養殖において人工種苗比率100%を実現」と「養魚飼料の全量(すなわち100%)を配合飼料給餌に転換」を設定しています。その中間目標として2030年にはそれぞれ「人工種苗比率13.2%(ただし、ウナギを除く)」と「配合飼料比率64%」の達成を目指すことが先日開かれた会合において決定されたようです。公開されている資料のみからだけではそれぞれの数値の算出方法や根拠を知ることはできませんが、「天然資源に負荷をかけない持続可能な養殖体制を目指す」という大目的の達成に向かって、さしあたっての短期的な目標値を設定したというところなのかもしれません。 しかし、ここで再度コメントさせていただくと、天然種苗や生餌(オレゴンモイスト含む)も科学的根拠に基づいて管理し上手に活用すれば、人工種苗や配合飼料とのバランスの取れた持続可能な養殖体制の構築に寄与できるはずであり、今後このような分野に予算がつかず研究・開発が止まってしまうことを強く懸念しています。天然種苗や生餌となる天然魚などの「天然資源」を使わないことが持続可能性につながるのではなく、それらを賢く利用することが現実的な持続可能性につながるのではないでしょうか?むしろ、日本は水産のみならず国としての持続可能性を維持するために自国の天然資源の合理的な活用について積極的に考えるべき時代に入ってきているように思います。資源に乏しい日本であるからこそ、そうすることが極めて重要なはずであり、人が利用し/人に利用されて初めて「資源」であるものについて国自ら使用する権利を放棄して「資源」でなくならす必要性はどこにもないはずです。 追記:人工種苗と天然種苗については以前にも思っているところを書いておりますので、ご参照いただければ幸いです。 「 天然種苗と人工種苗のバランス 」 「 人工種苗はかっこいい? 」 「 完全養殖だけが養殖ではない 」

Rabobank(ラボバンク)のWorld Seafood Map最新版

RabobankがWorld Seafood Mapの最新版 を発表しました。顧客にはポスター版が配られるようですが、私たちはwebページにあるリンクからPDFをダウンロードして印刷します。A4で印刷すると拡大鏡がなければ読めないほどの文字サイズになってしまいますので、素晴らしいプリンタをお持ちの方は大きく印刷されることをお勧めします。 記事ではノルウェー、エクアドル、インド、東南アジアなどの生産国からEU、米国、中国への消費国の流れを中心に語られていますが、地図を俯瞰することで日本のポジションも感覚的につかむことができます。コロナやロシアのウクライナ侵攻など不安定な要素はあるものの、グローバルな水産物の流れがこれからどのように変わり、それが日本にどのような影響を及ぼすのか?について思いを巡らすには大変いい資料(地図)だと思います。必ずしも精密な数字と方向ではないようですが、トン当たり(1000トン単位)の流れが大きく、金額当たり(100万米ドル単位)の流れが左隅に小さく表されています。海産物の種類(矢印の色)やper capita消費量(国別の茶色系の色の濃さ)などの説明は地図の右下近くにあるLegendにあります。 World Seafood Mapの最新版、興味がある方はぜひご覧ください。 World Seafood Map 2022: Seafood Trade Keeps Growing From Strength to Strength Our 2022 World Seafood Map highlights the key global trends of the highly diverse #seafood sector and reveals soaring demand for high-value seafood in global markets as an important driver of future growth.

マダイ養殖のライフサイクルアセスメント(LCA)分析

AI搭載給餌機を活用したマダイ養殖では従来のものを使用するケースと比較して温室効果ガスを約2割程度削減できる:ウミトロンさんによるライフサイクルアセスメント(LCA)分析結果です。 2年の養殖期間のうちの後半1年でAI搭載給餌機を活用した実証試験結果がベースであり、報告書でも述べられているように海況や気候など他の多くのファクター―による影響を受けるところでもありますので一般化するにはもうすこし時間が必要かと思われますが、今後はこのようなかたちで、単に機材(今回の場合は給餌機)の性能評価いうことだけではなく、自社の事業がどの程度のインパクトで環境に影響を及ぼしているのかを客観的に評価してその結果を公表していくことが日本の養殖産業にも求められ、特に国際認証を受ける場合には必須になることでしょう。 また、マダイ刺身100 g当たりの温室効果ガス排出量の9割近くが飼料に由来することから、温暖化への影響を低減させていくためには飼料の調達、給餌(増肉係数)あるいは単位数量当たりの温室効果ガス排出量を削減していくことが課題であると指摘されていますが、ここで生産から販売・消費のプロセスに事業者間で大きく変わる/変わっていくことがないと仮定すると、この部分(飼料の調達、給餌(増肉係数)あるいは単位数量当たりの温室効果ガス排出量)での工夫と努力が温室効果ガス排出量に関して他業者との差別化を生み出す「ツボ」になることが分かります。 今回使用された飼料についてみると魚粉だけでなく、フェザーミールとチキンミールを併用したものようです。一般的にこのような飼料原料の使用は魚粉よりも温室効果ガス排出量の低減につながることが知られていますが(飼料原料から環境保護 その1 と その2 )、参考資料からそれぞれの配合率はそれほど高くないことがうかがえます。魚粉と他の原料の併用をもっと積極的に検討していくのも給餌(増肉係数)などへの対応に加えてプラスの戦略になると思われます。 ちなみに、アトランティックサーモンでは可食部100gの温室効果ガス排出量が0.79 kg CO2 eqという数字があります。評価方法によって変動するところですので直接的な比較は難しいかもしれませんが、牛(部分肉)を比較対象とするよりは養殖魚vs養殖魚として示すべき情報なのかもしれませんね。 ウミトロン、AI搭載スマート給餌機「U...

増肉係数(FCR)と給餌量

FCR(無次元)=給餌量÷増重量 学生さんのレポートのネタや試験対策であったり、ほぼ毎日報道されている陸上養殖で世間の養殖への関心が高まっていたりで、最近になって再び増肉係数(FCR)について問い合わせいただくことがあります。FCRついては 以前に何度か書いています のでそれらを参考にしていただくこととともに、特にFCRが事業に絡む場合には、給餌量と増重量について丁寧に検証することの大切さもお伝えしています。 例えば給餌量は、 給餌量=摂餌量+α+β+・・・・・ で表され、魚に摂取されたエサの量(摂餌量)のみならず、αやβといった様々なファクターによっても決まるもので、これらは、一例を挙げると、魚が食い損じたり吐き出したりして生簀外に流失するエサの量だけでなく、魚の摂餌活性が低いのに職場のプレッシャーで当日の規定量を時間内にやり切らなければならない(→当然、魚はエサを食べきらない)といった時に発生して無駄になるエサの量です。そして、このようなファクターは「目に見えず(invisible)」、しかも人的なものが多くて、それらがかなりのウェイトで「給餌量」に乗っかっている(くる)可能性があります。 検証された結果、そのような可能性を否定できないのであれば、まずはマネージメントの意識や職場環境、そしてフィールドからの意見に耳を傾けるといったことから改善を始める必要がありそうだと伝えています。IoT/AI制御給餌システムの導入を検討するにしても、そのような改善志向を持つ事業体(者)なければ、システムの能力を引き出すこともできないでしょう。摂餌量と給餌量の乖離を抑えるのがFCR管理の原則で、これを理解している事業体(者)は冷静です。

どちらも賛成:陸上養殖と海上(海面)養殖

先週はどうしても時間が取れずお伝えできませんでしたが、前回の陸上養殖に関する投稿を読んだ方から、「陸上養殖に反対されていましたか?」というような反応をいただきました。読み返すと確かにそのようにとられても仕方がないと思うところもありますが、私は陸上養殖にポテンシャルを感じており、実際、友人・知人から彼らが進めているサーモンやエビのプロジェクトについてプラクティカルな進捗を聞くたびに「すごいね」と感じている人間です。そこにあるのは盛られた計画ではなく、儲けるためのビジネスモデル、儲けるためのテクノロジー、儲けるための生産規模、儲けるためにあきらめなかった歴史からつくられるものだからです。しかし、一方で、私は海面養殖にも大きなポテンシャルを感じており、陸上養殖のみにそれを見ているのではありません。海面養殖には陸上養殖にはない歴史があり、安定的に儲けを生み出し続けているビジネスモデルとテクノロジーに支えられており、それらは今でも進歩・発展しています。つまり、私は陸上養殖も海上(面)養殖も基本的には賛成なのです。と、言うことです。