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肉厚マダイ

ゲノム編集で肉厚にしたマダイ。筋肉の発達を制御する遺伝子をゲノム編集技術で働かなくすることによって作出されました。『自然界でおこる突然変異とメカニズムは同じ』、『いやいや、それを好きな時に人為的に起こす時点で同じじゃない』など賛否両論の意見が飛び交っていますが、魚に携わる側からみると先ず養殖効率はどうなのだろう?という素朴な疑問があります。肉の厚さについてはもちろん、成長や飼料効率についての情報も出ているようですが、魚を飼うことから商品/食品/消費に至るまでの全行程を範囲とする養殖という産業の効率化にどの程度貢献できるかについての具体的な検証と証明はこれからです。 最近の総説( Blix et al., 2021 )によれば、世界ではおおよそ20種程度の魚種でゲノム編集の研究が行われており、養殖の分野では主に成熟、成長、色素、抗病性について、また魚種はティラピアやサーモン/トラウト、国別では中国、アメリカ、ノルウェーでの研究が上位を占めています。日本の研究が自国の養殖のみならず世界の養殖に貢献してその意義と存在感を高めていくことにも期待です。 ゲノム編集マダイ流通へ 魚で初、養殖の効率向上期待 厚生労働省は17日、専門家会議を開き、遺伝子を効率よく改変するゲノム編集技術を使って品種改良したマダイについて、安全審査を不要と判断した。京都大学発スタートアップのリージョナルフィッシュ(京都市)の届け出のみで販売流通を認める。国内で認められたゲノム編集食品はトマトに続き、魚では初めて。品種改良が容易になり、低コスト化やブランドの創出などにつながると期待されている。販売流通が認められたマダイは

培養魚肉

  養殖魚では代替タンパク源の開発・使用によって魚に対する栄養を担保しつつ飼料コストの削減とサスティナビリティ―の向上を目指しますが、それと同じようなことが培養肉の分野でも起こっているというのは面白いですね。 培養肉にもエサ(餌)が必要な点では養殖の魚と変わらず、エサとしての培養液とそこに含まれる他動物の血清などを他の成分で代替して安価で安定的な生産を目指す:魚も細胞も動物という観点からするとそれほど変わるところはないですね。 その一方で培養細胞をわざわざ成型して肉にするなどで無理に「魚」を目指すことが無駄で持続性のないプロセスにならないのか心配です。 魚をフィレにしたり、刺身にしたりといったプロセスとは全く逆のもののように感じます。また、培養肉には屠殺(とさつ)がなく、環境も汚染せず、またこの記事にも書かれているように環境汚染の影響も受けないなどとよく言われますが、血清は屠殺された動物由来でしょうし、その動物や他の培地成分(代替成分を含む)は環境を汚染せず/汚染の影響を受けずに生産されることもないでしょう。 周囲にインパクトを与えるという点では天然魚も養殖魚も培養肉も同じではないでしょうか。大変素晴らしい技術であるからこそ、「魚のように」や「漁業や養殖業より優れている」ということではなく、これらとは別次元の食物であり、またその生産法であることの素直な説明とアピールが培養肉に望まれます。 マグロなど高級魚、培養肉に マグロやクエといった高級魚などの水産資源を細胞培養でつくる「培養魚肉」が2022年に実用化する。米スタートアップのブルーナルがクロマグロの培養魚肉を米国で発売する。価格は天然と同程度になる見込みだ。乱獲と人口増で消費量が増え、持続可能性の危機にある水産資源を補う食料源として期待を集める。世界の水産資源の消費量は増えている。国連食糧農業機関(FAO)や水産庁の資料によると、魚介類の消費量は200

魚骨異物

魚の骨が喉に刺さることは「疾患」で、それを医学的には「魚骨異物」と呼ぶそうです。なるほど、子供に症例が多いのは自然なことなのかもしれませんが、中高年でもということですので私たちおじさんは気を付けないといけません。子供の群(中央値4歳)ではウナギやアナゴの骨が刺さることが多いようです。ウナギやアナゴで骨って刺さるのですね。同じカテゴリーに入っているハモであればわかるような気がしますが。一方で大人な群(中央値51歳)ではヒラメやカレイの骨が刺さることが多いようです。年による嗜好の変化かもしれませんが、もしかするとおじさんたちはウナギを食べさせてもらっていないだけのことかもしれません。しかし、いずれにしても刺さった骨の除去のために内視鏡や手術が必要になる可能性が比較的高いのはヒラメやカレイであり、それは喉の奥や食道に骨が刺さる場合が他の魚の骨に比べて多く、しかも放っておけば自然に骨が抜けることが少ないという理由によるとのことです。水産業的にも水産学的にも大変面白い論文だと思います。将来、魚のサイズ(大きさ)や料理の種類(刺身、焼き魚、煮魚など)の情報とも絡めればより多くのこともわかってくるかもしれないですね。 論文はここにあります。 https://doi.org/10.1371/journal.pone.025... 魚の骨が刺さる事故の実態を詳細に調査 -カレイとヒラメは骨に注意!- 【本学研究者情報】 〇大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 講師 鈴木淳 研究室ウェブサイト 【発表のポイント】 咽頭注1・食道に魚の骨が刺さった(魚骨異物)患者を調査し、年齢、性別、原因と...

コロナ禍だから

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水産養殖業界もデルタ株の影響でコロナ禍のインパクトからなかなか抜け出せない状況が続いています。最近では米国・フロリダで陸上閉鎖循環養殖施設(RAS)を運用しているAtlantic Sapphireが液体酸素を調達できずに、無給餌(絶食)を含めた厳しい給餌制限を行う状況に追い込まれたという ニュース もありました。フロリダのコロナ患者の急増によって病院での酸素の需要が爆発的に増加し、他の目的(産業)のために回す酸素はないということのようです。病院とは競合しないグレードの液体酸素の調達に動いているとのことですが、通常のオペレーションに必要な量をカバーするだけのものを入手することは簡単でないでしょう。SPAなど空気中の酸素を濃縮して供給する物理・機械的な方法も代替の候補として考えられるものの、巨大なRASが要求する酸素を賄うには厳しいものがあります。コロナ禍だからこそのアクシデントとも言えますが、魚を飼うための酸素さえもがコロナの影響を受けるとは思ってもみませんでした。他にどのような影響が出てきてもそれから学びうまく次につなげる経験としたいものです。 さて、魚関係ではない身の回りで「コロナ禍だからこそ」といえばface-to-face やin-personでの集まりが激減した一方でオンラインでのカンファレンス、シンポジウム、ウェビナーに参加/聴講する機会が増えてきたことがあげられます。この内容で無料とは!?と驚くぐらい質の高いものあり(逆にこれでお金を取るとは。。というものもありますが)、勉強になりそうなもの/面白そうなものにはできる限り都合をつけて参加/聴講するようにしています。しかし、例えば少しでも専門から外れる分野のことをしかも超スピードの英語で話されたりすると聞くことに集中するあまりなかなかノートづけ/メモ取りすることが難しいのが悩みで、参加/聴講した後にじっくりと内容を確認/復習するにはどうしたものか?と考えていました。Googleのブラウザ「Chrome」上で参加/聴講できるものであればChromeの補助機能「 自動字幕起こし」 がリアルタイムで英語のキャプションを表示してくれるので助かるのですが、このキャプションは流れていくばかりでドキュメントやテキストで保存することができません。 また、Zoom、Teamsといったツールを利用するものではそれぞれのアプリケ...