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電気でアニサキスを退治

実験用に集められた1000匹(専門的には隻(せき)と数えます)のアニサキスはある意味圧巻だったでしょうね。株式会社ジャパン・シーフーズと熊本大学の共同研究チームが『電気(パルス)』を利用してアニサキスを殺虫する基本技術を開発しました。 日本ではあまり気にすることなく生の刺身を食べますが、厚生労働省のページによるとここ三年では毎年400人前後の方がアニサキスにやられおり、コンスタントに被害が発生しているようです。400人って少ないよね?と思われるかもしれませんが、アニサキスの痛みに七転八倒している方の様子をみれば数で語ってしまうそんな考えも吹き飛びます。冷塩水中で処理を行うことから刺身としての品質を保つことができ、従来からの冷凍といった殺虫方法とは一線を画すとのことで、さらに改良を加えていけば日本の刺身文化を支える貴重な技術になるかもしれません。 また、例えば欧州では生(刺身)で食べることを目的とした魚製品はアニサキスのリスクを除去するために(アニサキスがいなくとも)凍結処理をしてから料理し提供することが法律で義務づけられていますが、いいかげんな凍結・解凍処理のおかげでビチャビチャになった刺身に何度も驚いた記憶があります。寿司ブームもあって海外で生食の需要が伸びると同時に刺身の品質への要求が厳しくなっていくことは確実で、今回の技術が日本の外でも優れた代替法として注目されるのではないかと思います。『殺虫できたかできていないか』をアニサキスに物理的刺激を与えて『反射運動するかしないか』で判定されていますが、それに加えて『培養下で生き返らないか』や『魚や組織に再寄生しないか』などの判定項目を加えられ研究をすすめられれば海外での許可申請やプロモーションの際に大変助けになるでしょう。 アニサキス症の経験がある人のなかにはアニサキスアレルギーになられる方もおり、再度アニサキスあるいはアニサキスに由来するアレルゲンが体内に入るとアナフィラキシーなどの強度なアレルギー反応を示すことがあります。体内に入るアニサキスが生きているのか死んでいるのかに関係なく起こるアレルギー反応ですので、このようなケースでは魚にどんな処理としようとも被害が発生します。しかしここでアニサキスアレルギーになる(1次感作)きっかけが生きたアニサキスの寄生であることを考えると、今回の技術で殺虫したアニサキスが1次感...

人工種苗はかっこいい?

農林水産省が「農林水産研究イノベーション戦略2021」を策定して先週公表しました。『本戦略は農林水産分野に世界トップレベルのイノベーションを創出することを念頭に置いた「挑戦的な戦略」である』とのことで大きな話になるのも仕方がないのかもしれませんが、私が関係する水産養殖の分野についてだけみても、目標やその数値の選定/算出根拠に欠けているように感じます。例えば、『ニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人工種苗比率100%を実現』とのターゲットは我が国の水産養殖産業にとって良いことなのでしょうか?技術開発の継続と発展は必要ですが、種苗の100%を人工種苗でカバーすることが最重要の課題であるようには思えません。天然種苗を使用することはカッコが悪くて持続性が低いものなのでしょうか?むしろ、天然種苗資源をしっかりと科学的に管理しつつ使用して、人工種苗も併用していくことを日本の水産養殖の基盤にすべきではないのかと思います。天然種苗だけに頼っていると今期のブリ(モジャコ)のようなリスクを避けることはできず、また高成長や抗病性を目指す育種もできません。しかし一方で人工種苗だけに頼れば採卵・種苗生産の失敗や孵化場での事故で供給不全といったリスクが必ず付きまといます。比較的高度な技術と高いコスト(費用)が要求されるこれら魚種の孵化場が、そういったリスクをカバーできるほどの規模と数で運用されると考えるのは現実的ではありません。『持続性』をキーワードとして種苗(魚)だけのことを考え今回のようなターゲットと数値を設定したとすれば、『持続性はスペクトラムである』ことを忘れずにいてほしいものです。種苗(魚)の持続性、産業の持続性、学術(科学)の持続性:これらが途切れなく連続したものが『養殖の持続性』だと思います。「人工」は持続性の一部にすぎず、代表するものではありません。我が国における養殖をこの連続した3つのピラー(柱)でしっかりと支えていくことを目的にターゲットと数値を設定すべきではなかったのか?と感じています。 (註:100%人工種苗とは先に制定されている「みどりの食料システム戦略」のなかで定められられているものですが、これを達成するための「農林水産研究イノベーション戦略2021」ですのでここでは内容に区別なく感想しました。) 「農林水産研究イノベーション戦略2021」の策定について:農林...

ヨーロッパの養殖プロジェクト

欧州イノベーション&テクノロジー研究所(EIT)のコミュニティーEIT FoodがEUにおける養殖産業の持続的発展を目標としたプロジェクトを公募、コンペティションを開催していました。選ばれたプロジェクトの発表が先日あり、EIT Foodのホームページに掲載されています。選出された7つのプロジェクトは: 【加工】 Sustainable Seafood Processing (SuSeaPro) 【生産技術(魚類)】 Next Tuna: Creating a Sustainable Tuna Industry 【飼料】 Circular Economy Feed Ingredient for Farmed Salmon 【魚の健康】 BREEZE: A revolutionary eco-friendly system for fish health management  【AI技術】 AGAPE: Aquacultural Global AI Platform for Europe’s Skills Passport 【生産技術(貝類)】 DELTA FUTURO: shellfish juvenile production mode 【魚の福祉】 Just Add Water: utilising world-leading technology to minimise environmental impact and maximise fish welfare of farmed salmon それぞれのプロジェクトをあえてカテゴライズすると【 】に示した分野に分けることができますが、プロジェクトの内容と併せて俯瞰しますとEUがこれからの養殖産業に何を求めるのか?その方向性が読み取れます。日本やアジアでの養殖にはヨーロッパでの出来事は関係ないと思われていたのも今は昔。特に持続性に関しては世界をリードしており、影響力がますます強まっています。一方で魚の福祉一つをとっても、それを明文化してオペレートしている養殖会社は大手においても我が国にはないのが現状です。魚の福祉なんて、、、と思われているかもしれませんが、認証に盛り込まれて従わないといけなくなるのはあなたです。日本の持続性に対する考えやアイディアを彼らに伝えて会話し、時には協業して、良いことであれば逆に彼らの...

日本の勢い、海外の勢い

アジアでの需要増大はある意味バブル的な現象としての側面があり、彼らと話をするといつ弾けてもおかしくはないと感じることがあります(実際いま弾けているところもありますが)。しかし、「水産」が政策としても産業としても学問としてもパワーとスピードをもって展開され発展し続けている様には目を見張るものがあり、日本にはない「勢い」が彼の地にあるのは確かでしょう。そのような「勢い」を日本にどうつけるのか?日本の各界が求めるべき解はそこにあるのだと思います。デフレの原因は消費者にはないのですから。 魚がぜいたく品になる未来 日本が他国に「買い負ける」日 刺し身はいずれ日本人の口に入らなくなる、そんな噂がささやかれている。欧米の和食ブームだけではなく、中国、タイ、インドネシアなど新興国の中間層から魚介類の需要が高まり、価格の急騰につながっているのだ。このままでは、高くても魚を食べたい外国に対して、安いものしか買わない日本の「買い負け」が顕著になる。私たちは何ができるか。『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(日本経済新聞出版)より抜粋する。