投稿

5月, 2021の投稿を表示しています

チリでの赤潮

チリのサーモン養殖が赤潮で大きな被害を受けたことをご存知の方も多いと思います。2016年につづく大規模な発生で、死亡した魚は約7,000トンとも、10,000トンともいわれています。赤潮の原因は?ということで、やはりサーモン養殖自体が要因の一つと考えられているのは自然なことでしょう。日本でも、どこでも、魚の生簀が設置されている環境で赤潮が起これば、その発生に養殖が関わっていると思うのが一般の人々の自然な感じ方ですし、養殖に携わる我々も全否定できず、また、そうすべきでありません。環境(地球)に影響を与えない産業はなく、養殖もそうであることを我々自身が理解して受け入れ、負のポテンシャルと常に隣り合わせであるという心掛けで日々工夫することが、より良い予防策の開発と素早い対応につながるのだと思います。 さて、今回のチリでの赤潮の原因、みなと新聞のコラムによると「魚粉代替飼料増加による食べ残し」の可能性が指摘されているようです。しかし、食べ残しは確かに原因になりえますが、どのようなエサ(飼料)でも生産者にとってはお金ですので、それを海に捨てるがごとく魚が食べ残すほどにエサを与える(過給餌する)でしょうか?「魚粉代替」飼料であればむしろ代替原料のインバランスな配合や品質の良くない代替原料の使用によって飼料(栄養素)の消化率が悪化し、消化しきれなかった栄養素が糞として環境水中に放出された可能性も考えられます。消化が良くなければ魚はそれを補うために自身で摂餌量を上げる(よく食べる)ことがあります。そして結果的によく糞をします。現地に詳しいわけでありませんが、コロナの影響で代替原料の生産に量的・質的な瑕疵が発生しているのかもしれません。チリでは陸上動物(トリ)の加工産物を代替原料として多用する傾向にあり、その品質の良いものを安定的に生産することには、ある意味、植物性の代替原料の場合よりも難しさがあります。また、超低魚粉飼料のサーモン飼料では配合される個々の原料の量と質に許されるブレ幅が極めて小さく、その点でも他の飼料とは特異です。過給餌もインパクトを与えたのかもしれません。しかし、それに加えてチリ、コロナ、サーモン、代替原料といった複数の要因による今回の赤潮のように思えます。 チリでサケ大量死、4200トン被害 有害藻類の増殖で 【4月9日 AFP】(写真追加)チリ水産庁は8日、有...

サーモン養殖における分業

前回紹介したwebinarは生簀網のクリーニングについて触れていました。webinarを見た方から『あれだけ大規模に魚を飼っていたら、生簀網を頻繁にクリーニングする労力はすごいでしょうね』という感想をいただきましたが、実は『そうでもない』のです。そういってしまうと語弊もありますが、海外の養殖では結構あることで、クリーニングはクリーニング屋さんにお願いしており、養殖会社が自ら行うわけではありません。日本の養殖産業では基本的にすべてを自社で行う傾向にありますが、海外ではそれぞれの作業をそれぞれの事業体が行う分業化が顕著です。SalmonBusinessの最近の報道から例をあげると、サービス会社のFrøyが養殖会社から4年間のクリーニング作業を2500~3000万ユーロで請けています。また、規模が大きな養殖であるがゆえに、死亡した魚、特に何らかの原因で大量に死亡した魚を回収するのも養殖会社が自らする(できる)わけでありません。回収屋さんが来てくれます。Nordlaksが運用する今話題の超大型養殖船Jopstein Albertから(おそらく)死亡魚を回収するために、副産物加工会社Hordaforの回収船2隻が派遣されていたことが今月初めに報道されています。Frøyはクリーニング以外にも活漁船、ウニシラミ駆除など、またHordaforは死魚回収以外に加工場からの副産物で魚タンパク/魚油製品の製造を手掛けます。もちろん、すべての養殖会社がこのような外部リソースにどっぷりと依存しているのではありませんが、海外で大規模養殖が成し得ているのは、それぞれにプロ化されているこのような専門会社と魚を飼う養殖会社による協業が確立されていることにもよるのでしょう。一部の養殖企業ではこのような専門的作業を含め全てをインテグレーション化する動きもありますが、ここまで高度に専門化されている作業を自社で一から開発するは大変難しいようです。SalmonBusinesの記事にはJopstein Albertに向かった回収船Hordafôrの航跡も掲載されています。養殖船も回収船もリアルタイムに追跡される時代になりました。 High traffic of silage vessels from the gigantic salmon ocean farm "Jostein Albert...

World Aquaculture SocietyのYouTubeチェンネル

コロナの影響で大会が延期されたり、代わりにwebinarが計画されたりで、これまで静かだったWorld Aquaculture SocietyのYouTubeチェンネルが賑やかになっています。オンラインへと変更になったPlenary talkやセッションのKeynoteがアップされていますので、自分の好きなタイミングでバック/フォワードしながら、養殖産業/科学のトピックスやトレンドをチェックできるのはいいですね。大学の学生/院生さんに対してもいい教材になるでしょう。 ノルウェーとニュージーランドからの生簀の付着生物や汚れに関するwebinarが1題ずつ抜き出されてアップされています。ノルウェーからの発表ではin situ(現場)でのネットクリーニング(網掃除)で除去された付着生物や汚れが流れ移動して近隣の生簀(漁場)を汚染することを表したシミュレーションや、1回のネットクリーニングで網をコートしている防汚剤の30%が落ち、35回では90%が落ちること、また、このようなネットクリーニングによる防汚剤の剥離で年間1,250トンの銅が失われており環境的にも金銭的にも憂慮すべき事象になっていることが紹介されています。一方でニュージーランドからは、2012年以降は生簀網の防汚剤処理は行っておらず、しかしアザラシなどの外敵から生簀網を守るpredator netについては処理を行うことや、ノルウェーと同様に付着生物によると思われる魚への外傷(+二次感染)被害があり、そこに注目した研究が行われていることが紹介されています。ノルウェーもニュージーランドも高水温期には5日~1週間の間隔でネットクリーニングが必要であり、こういうところの経費は相対的に小さいながらも無視できない金額になっているでしょうね。ニュージーランドに関してはなじみがなかったので発表の内容が新鮮に感じました。 World Aquaculture SocietyのYouTubeチェンネル、ぜひご覧ください。 World Aquaculture Society Share your videos with friends, family and the world

養魚飼料原料としての大豆

 前回の『魚粉の代替原料として使用されてきた植物原料、特にsustainabilityとtraceabilityを担保できる大豆のavailabilityに大きな制限がかかってきたことと、・・・』とは、どういうことでしょうか?と聞かれました。原料を扱う商社や飼料メーカーの人々にはよく知られた情報ですが、魚の生産者サイドにはまだまだ伝わっていないことがあるのでしょう。ノルウェーのアトランティックサーモン(アトラン)と濃縮大豆たんぱく質(SPC、Soy Protein Concentrate)を例にしてお話しすると分かりやすいかもしれせん。 日本では量的に極めて使用が少ない大豆由来の原料ですが、魚粉削減に強烈なパワーを発揮します。今日のアトラン飼料での低魚粉レベル約10%は、この原料なしでは達成できなかったでしょう。しかし他方では、主要産地であるブラジルでアマゾンを切り開き生産されてきた部分もありました。そこで業界はサプライヤーや環境団体などとの協議を重ね、今後は伐採拡大されない土地で生産されるSPCのみ(traceability)を飼料に使用することでsustainabilityを高めようとしています。そして、生産される土地が限られるわけですので自ずとavailabilityが制限されるのですが、それに加えて、このような強力な業界の枠組みでアマゾンのSPCが囲まれてしまうわけですので、部外者には入手困難なものになってしまうということです。ざっくりと簡単にお話ししましたが、ご理解いただけたでしょうか?もちろんSPCはnon-GMOです。 前回の補足にもなりますが、ノルウェー食品・漁業・水産養殖研究所(NOFIMA)の報告では、ノルウェーで使用される163万トンの飼料原料のうちの31万トン(19%)がSPCです。魚粉は19万トン(11%)ですし、次いで使用されるタンパク源の小麦グルテンで15万トン(9%)、コーングルテンで6万トン(4%)ですので、アトラン飼料におけるSPCの重要性が分かります。ただし、彼らにとっても、これ以上のSPCの確保は困難であり、しかも特定の原料への高い依存性によって飼料配合のflexibility(柔軟性)を損なうことになっています。何かの理由でSPCの入手が難しくなれば、飼料の製造、ひいては養魚自体が危ぶまれます。そういうことで、彼らに...

昆虫のポテンシャル

主にヒトの食品用としての昆虫という観点から書かれている記事ですが、そのなかで触れられているフランスのインセクト(Ynsect)に代表されるように、飼料用の昆虫を生産する産業も世界で急速に拡大しています。理由はいろいろですが、魚粉の代替原料として使用されてきた植物原料、特にsustainabilityとtraceabilityを担保できる大豆のavailabilityに大きな制限がかかってきたことと、従来からの陸上動物(主にトリやブタ)由来の代替原料を敬遠する考えが未だ健在(?)であることがその一つと考えられます。大豆ではGMOフリーや熱帯雨林保護からの制限といったキーワードを使ってお伝えしたほうが分かりやすいかもしれません。陸上動物由来の原料については『自然で魚はトリやブタを食べないから』といった考えや、『狂牛病』に対するトラウマ的な感情がまだまだ存在するからでしょう。一方、昆虫には(今のところ)遺伝子改変やアマゾンのような環境にかかわる話題は少ないですし、『魚はもともと昆虫を食べている(特に淡水魚やサケ・マスなどの遡河回遊魚では)』といった感覚が一般に受け入れられているところが強みになっているとも感じます(魚でも鳥類を食べる例はあるのですが…)。そういった意味では、魚粉だけでなく植物や陸上動物由来の原料をも代替していく飼料原料としての性能や機能性が、昆虫ミールやオイルに求められてきているとも言えそうです。もちろん、他方で注目されている微生物や藻類由来の原料もその例外ではありません。 昆虫生産のオートメーション化をビジネスとするデンマークのDanish Insect Automation ApSが、Google Mapを利用して The Insect Industry Map (昆虫産業地図)を作成しています。会社名、電話番号、ホームページのURLなどを気軽に伝えれば地図に加えてくれます。地図上で日本からは0(ゼロ)ですので、興味がある方はぜひ登録されてはいかがでしょうか?現在、世界から160社の登録です。 欧州で本格化する「代替肉」は昆虫! 900万人の欧州人の舌をとらえる | 未来コトハジメ ミールワームという虫をご存知だろうか。爬虫類や小鳥の餌などとして飼育されてきた甲虫の幼虫である。実は今年(2021年)1月、欧州ではこれが人の食用として「安全」と正式に評...