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4月, 2021の投稿を表示しています

飼料製造のサイエンス

養殖場を訪問すると「エサ(飼料)って、原料を混ぜ合わせて機械に入れれば誰にでもできるんでしょう?」という感覚の飼育責任者や担当者にときどき出会うことがあります。確かに機械(エクストルーダー)に原料を入れないと製造できませんが、誰にでもできることではありません。そこにはオペレータの熟練した技術だけでなく、科学(サイエンス)が存在します。国内外問わず優れた飼育責任者/担当者は飼料製造の科学についても理解を深めようする姿勢が強く、概してそのようなスタッフがいる養魚場の魚の仕上がりには大変すばらしいものがあります。自分たちの魚を上手に育てるために役立つであろう知識や経験の引き出しを多く持っているのだと思います。 さて今回は、先日発行されたAquafeed magazineにEP飼料の可塑剤(plasticizer、プラスティサイザ)についての記事がありましたので、少し「可塑剤とは?」でお話をします。可塑剤と聞くと合成樹脂をイメージされる方が多いと思いますが、エクストルーダーで射出成形する養魚EP飼料にも利用されます。ただし、もちろんのこと、合成樹脂のように化成品は使いません。EP飼料の原料から可塑剤としての性質(能力)を引き出して利用するのです。可塑剤としての働きによって可塑性化(plasticized)されるとEP飼料の耐久性(durability、デュラビィティー)が向上します。手で撒くことがほとんどなく、機械で混ぜ・ポンプやブロアーで飛ばして給餌する現在では、物理的な観点からEP飼料に最も要求される特性です。可塑剤(水を除けば)としての性質を有するには、原料に比較的多くの水溶性タンパク質と低分子のペプチド・アミノ酸が含まれている必要があります。魚粉にはこのような性質がありますが、魚粉の種類によって性質の違いやばらつきがありますし、低魚粉飼料ではもともと低い魚粉含量のためにそれを求めることも難しくなります。特に低魚粉飼料では高配合される植物性タンパクによっても飼料の耐久性がさらに失われる傾向にあり、飼料の可塑性化に一層の工夫が必要になります。 この記事ではfish protein concentrate(FPC、魚濃縮タンパク)の可塑剤としての性能を明らかにしています。FPCであれば日本国内でも手配が比較的簡単な原料でしょう。日本で良く使用される他の原料とのコンビネーシ...

海外RASの上陸

ノルウェーのプロキシマー・シーフード(Proximar Seafood)が静岡で進めている陸上閉鎖循環式養殖施設(RAS)の施工が大和ハウス工業さんに決まったとの報道です。このRASの基本システムはイスラエルのアクア・マオフ(AquaMaof)の技術に基づきます。AquaMaofは私の友人が活躍している会社で、彼らはシステムの性能を十分に引き出してくれるパートナーが必要でした。コロナ前に会ったときにそんな話をしながら「大型RASの建設実績のない日本でどの企業に施工を依頼するのだろう?」と思っていましたが、今回の報道で納得です。アトランティックサーモンの大型RASは三重県でも計画が進んでおり、その基本システムもAquaMaofの設計によるものです。私の海外時代に一緒に汗を流して魚を育てた友人の努力と技術。それによって生まれたRASが日本で、日本を代表する企業によって施工され、運用される日が近づいていると思うとうれしくなってきます。今は私も魚の飼育~飼料面から別のRAS(彼らのではありませんが)のお手伝いを少ししていますが、RASの理論と技術に関する私の経験と理解は彼らには到底及ばず脱帽です。 北欧企業、サーモンを陸上養殖 ノルウェーでサーモン養殖事業を手掛ける企業が日本での陸上養殖事業に参入する。約170億円を投じ、静岡県内の工業団地内に専用の循環養殖施設を4月下旬に着工。2024年半ばから出荷を計画する。養殖施設は大和ハウス工業が施工し、施設の延べ床面積は約2万8千平方メートル。年間生産量は日本のサケマス類の輸入量の2~3%にあたる6300トンを見込む。プロキシマーシーフード社が養殖するのは、すしネタとしても

嫌気発酵でのアスタキサンチン製造

天然アスタキサンチンが水産養殖飼料の色素源として、もっと身近なものになるかもしれません。ハワイ拠点のKuehnle AgroSystems(KAS)がヘマトコッカスから天然アスタキサンチンを大量生産する新規の培養法を確立したことが報じられています。ヘマトコッカス由来のアスタキサンチンはすでに市場流通していますが、これら従来のものは光がある明条件下で培養・生産されるものであるのに対し、KASの技術では暗条件下で培養して嫌気発酵過程を経るもののようです。パテントがまだ公開されていないようですので技術の詳細は分かりませんが、Aquafeed.comの製品記事では生産に必要な時間とコストを従来の培養法よりも80~90%削減できると紹介されています。天然アスタキサンチンとしては従来のヘマトコッカスだけでなく、ファフィア酵母、パラコッカス由来のものがありますが、いずれも合成アスタキサンチンと比べると先ずは価格で苦戦する現状があります。水産養殖アクセラレターHATCHのGLOBAL COHORT 2019にも選出されているKASの技術。既存のものより高効率・低コストで天然アスタキサンチンを製造・供給できることがスケールアップで実証されれば、オーガニック養殖飼料用としてはもちろんのこと、通常の養殖飼料用の色素源としてのポテンシャルも一気に広がると思われます。 New astaxanthin player debuts armed with ‘dark fermentation’ patent A new player is on the verge of entering the astaxanthin and other markets with the granting of a patent on a ‘dark fermentation’ process for cultivating Haematococcus pluvialis and other algae species.

Whataboutism/お前だってダメじゃん

アウトドアブランドのThe North Face(ザ・ノース・フェイス)とオイル・ガス関連会社のInnovex Downhole Solutionsの間の出来事です。内容については記事をご覧いただければすぐにとれますので書きませんが、昨年にはアウトドアブランドPatagonia(パタゴニア)と養殖大手Cooke Aquacultureとの間にも似たようなことが起こっています。はっきり言って、どちらのケースでも「Whataboutism/お前だってダメじゃん」で、なんの結論もでないでしょう。記事が伝えたいこととは少し違いますが、どのような産業にも自然に対して悪影響を与えているところがあると理解し、己の産業のそのような短所をどのように軽減・削減していくのかについて考え、さらに時には攻撃したくなる産業との連携をも探っていくほうが、よほど意味のあることではないでしょうか。「Whataboutism/お前だってダメじゃん」というループには私も誰もが簡単に引き込まれてしまいます。とらわれているという認識と、抜けだそうとする努力や工夫が次へのステップにつながる近道なのだと思います。 ザ・ノース・フェイスが石油業界とバトル中。それが他人事じゃない理由 The North Faceが石油会社からの発注を拒絶したばかりに、石油業界から目の敵に。消費者も化石燃料への依存度を下げていく努力をすべき。