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養殖の多様性と持続性の大切さ

海での養殖では世界を養えない/Farming fish in the sea will not nourish the world というインパクトがある題で一つの論文がnature communicationsに掲載されました。海面養殖、つまり海での海産魚の養殖は高付加価値魚種を対象としたものであり、実績、生産効率、雇用規模、環境負荷、魚価など多くの点において淡水魚養殖には及ばないということですが、これらのことは従来から言われていることですので、海産魚養殖の華やかさに隠れて目立たない淡水養殖の実力と将来性の改めての指摘を意図したものと捉えたほうが良いのかもしれません。日本にいると淡水魚養殖のすごさを実感する機会になかなか恵まれないのが実状です。情報もコンパクトに濃縮されている今回の論文。水産養殖への参入/出資を検討している企業や投資家の方だけではなく、水産養殖を勉強している学生さんや若い研究者に対しても大変インフォマティブなものであると思います。 ただし、だからといって淡水養殖が圧倒的に優れるのではないとの考えも、私は持っています。先日の投稿でも書きましたが、どれが良いということではなくて、どれもが互いのバランスをとりつつ発展していくことが重要であるとの考えに変わりはありません。また、ほとんど語られないのが不思議ですが、農作物や畜産物と同じように、水産養殖物にも食(魚)の多様性の提供を通して人の心を幸せにする役目/役割があります。イワシも美味しいけれど、今日はブリが食べたいな。サーモンもいいけど、今晩はお酢をかけたティアピアの素揚げにしよう。魚だけでなく、エビも美味しいよね。こういうことは、それぞれの養殖形態があってのこと。持続性を保ちつつ大切に発展させていきたいものです。 https://www.nature.com/articles/s41467-020-19679-9

バランスの大切さ

この記事にも紹介されているように最近では陸上養殖(RAS)と細胞培養による魚介類肉の生産について大きく報道されることが多くなってきました。以前から私のところにも投資会社や出資を検討している企業から現状と将来性についてのオピニオンを求める問い合わせがありますが、コロナ・パンデミックの影響もあってか、ここにきて注目度が急激に上昇してきているなと感じています。しかし、ここで心にとめておきたいのは、RASだけでも、細胞培養だけでも、またその併用だけでも、食料としての魚介類の生産を質的・量的に賄うのは難しいだろうということです。既存の海・湖・池面養殖も並行して進化させ、それらを両輪として動かしていくことでなければ、人間(ヒト)を養い満足させていくことは困難でしょう。陸と水界の両方をフルに活用していかなければならないと思います。現状ではRASと細胞培養のいずれにおいても商売として独り立ちしているケースはほとんどありません。それなのに多くの関心がそこに集まるのは「環境にやさしい」や「動物を殺さない」など投資家や出資者、そして一般の消費者にとって理解しやすくインパクトがあるキーワードが存在するためです。華やかですしね。その一方で常に比較対照される海・湖・池面養殖は実績があるにも関わらずネガティブに捉えられがち。関心・評価のインバランスを心配しています。RASが良い、細胞培養が良い、海・湖・池面養殖が良いということではなく、バランスを保つためには?できることから始めている今日この頃です。   サーモンは陸上養殖…食物はどこでもつくれる 人口は2050年に90億人に達すると予測されている。そのとき、私たちは人間らしい食を満喫することができるのだろうか。大地や海の恵みは有限だ。食料を適切に行き渡らせることができないなら、持続可能な農業や牧畜、水産の取り組みを前に進めるしかない。場所を選ばず食物をつくり、地産地消に持ち込めるかが人類を救う。

中国発 高品質キャビア

中国で生産されるキャビアの量と質が格段に向上してきているとのこと。他国での生産事情とともにNHKが報じています。 中国の浙江省杭州にある千島湖(せんとうこ)という湖では湖面の生簀(いけす)での養成を経て、最終的に陸上で仕上げる魚(チョウザメ)から年間100トンのキャビアを生産しているようです。 文献で確認したところ2017年での世界のキャビア生産量がだいたい360トンですので、現在も同じような数字であれば今回の記事にも書かれているように世界生産量の約30%のキャビアがここで採られていることになり、この湖の生産量だけでロシアの49トン、イタリアの43トン、フランスの37トンを大きく引き離す勢いです。 Wikiによると千島湖は面積567.4平方キロメートル、平均水深34メートル(最大97メートル)のダム湖とのこと。人工的に出来上がった水域を上手く養殖に利用できている事例なのだと思います。 日本にはこれほど大きな人工湖はありませんし、電力や用水に関わるダム湖を養殖に使用するには規制があり簡単でないと思われますが、水域の有効利用を考える上では一つのヒントになるかもしれませんね。 ちなみに、世界のチョウザメ生産量は2017年で約100,000トンであり、その36%が掛け流し、21%がRAS、18%が生簀、11%が掛け流しとRASの併用、6%が池からつくられているようです。 ファーストクラスは“中国産” | NHKニュース 【NHK】高級食材の代表格のキャビア。生産量を急速に伸ばしている中国と、かつての主要な産地のイランの現状は。

コロナと輸入物

6月に中国・北京の食品市場でコロナウィルス感染症のクラスターが発生しました。そのクラスター発生に輸入されたサーモンが関わっていた可能性をNational Science Reviewに掲載された論文(短報)が指摘しています。当時はマーケットから輸入サーモンが緊急撤去されましたが、その後は中国政府もその可能性は低いとして事態は収束に向かっていました。Undercurrent Newsが背景と論文の内容を分かりやすく解説しています。 論文によると6月11日に52歳の男性の感染が確認され、翌12日に112人の濃厚接触者と242件の環境サンプル(男性が訪問した場所からの)をPCR検査したところ、食品市場から採取した2件の環境サンプルから陽性反応を検出。直ちに市場に関わる558人の検査をして陽性の45人を確認。それを受けて6月15から終息間近の7月10日の間に1,000万人以上の市民、可能性の高い約9,400人、市場で働く約3,300人と市場からの約5,300の環境サンプルを検査して、169人の感染者と139件の陽性環境サンプルを特定。これらのデータと抗体検査など他の追加調査結果を詳しく検討して、汚染源となった市場内の販売ブースを特定するとともに、ウイルスが輸入サーモンを介してそのブースに侵入したことを強く示唆する結果を得ました。ゲノム解析の結果から今回のウイルスは中国株ではなく、欧州株起源である可能性が示されています。 感染拡大を食いとめ、発生から1ヶ月以内に終息させた舞台裏を垣間見ることができるエキサイティングな内容でもありますが、この論文のインパクトはサーモンだけでなく、さらに、中国だけでの話でもなく、世界を移動する流通物すべてがウイルスのキャリアになる可能性を含意しているところにあるでしょう。記事では北京当局が輸入されるコールドチェーン食品を追跡するためのトラッキングシステムの導入と、業者・企業に対するシステムへの速やかな対応を求める予定としています。論文と記事で指摘されているように、「物」に付着している程度のウィルス(量)で感染が成立するのか?などについての詳細な検討が待たれますが、このような追跡システムの世界規模での実装が食の安全確保と疾病コントロールのため求められる時代がすぐそこに来ているのかもしれません。 Chinese study supports the...