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9月, 2020の投稿を表示しています

アスタキサンチンの薄れ

飼料には十分なアスタキサンチンが含まれているのに、どうして最近のアトランティックサーモンでは筋肉(フィレ)の赤味が薄くなってきているのでしょうか?ノルウェー海産物研究基金(FHF)からの予算でノルウェー食品・漁業・水産養殖研究所(Nofima)が主導する新たな研究プロジェクトが開始されました。 これまでにもサケ・マス類の筋肉の色素(主にアスタキサンチン)に影響を与える要因については種々の研究がなされており、例えば遺伝的系統、収穫(出荷)サイズ、飼料のω3脂肪酸などの関与が示されていますが、ノルェーのアトランティックサーモンを対象にしたNofimaによる一連の研究からは水温や疾病ストレスの影響と同時に、海産原料の配合量の低減化に伴って低下している飼料のリン脂質含量も大きな要因の一つであることが次のアウトプットとともに分かってきました。 ・飼料のリン脂質含量が食餌性(飼料由来の)アスタキサンチンと脂質の消化率に影響を与え、また飼料のリン脂質が低すぎると魚の成長が緩やかになる。 ・飼料に十分な魚粉が配合されていないと魚の食欲が低下し、腸での脂肪の蓄積が認められる。 ・魚粉の配合量が低い飼料へのリン脂質の添加により、魚の消化率と成長が正常化する。 ・腸への脂肪の蓄積は大豆由来のリン脂質を与えた魚よりも海産由来のリン脂質を与えた魚で少ない。 ・しかし、筋肉(フィレ)の赤味は大豆由来のリン脂質を与えた魚で最も強い。 今回開始されたプロジェクトでは、これらの成果を掘り下げるかたちで魚体内でのアスタキサンチンの動態や各リン脂質の関りが検討されるとともに、飼料のビタミンAの影響や低酸素ストレスとの関連を調べ、また、細胞レベルでのアスタキサンチン取り込み、変換、蓄積のメカニズムについても遺伝編集技術を利用して解析していくようです。 アトランティックサーモンはアスタキサンチンを生合成しないため、商品価値となる筋肉(フィレ)の赤味を生み出す(色揚げ)には飼料(エサ)からアスタキサンチンを摂取させて筋肉(フィレ)に蓄積させる必要がありますが、筋肉(フィレ)へは飼料に含まれるアスタキサンチンの10%しか蓄積しません。これは消化吸収されるアスタキサンチンが飼料のアスタキサンチンの30~50%程度でしかなく、その上、体内で代謝、変換、分解されたり、体外へ排泄されたりして、筋肉への蓄積にまわるアスタ...

海産魚養殖 in USA

 アメリカ本土での海産魚の養殖、これまでRASでの陸上養殖に注目が集まっていましたが、今回は海面養殖についての話題です。 カリフォルニア州サンディエゴでヒラマサ(カリフォルニアヒラマサ: Seriola dorsalis )の海面養殖を開始するための申請が出されました。先日の大統領令でお墨付きをもらったかたちですので、よほどのことがない限りは環境アセスメントをパスして、1~2年後には小規模ながらもヒラマサの養殖が始まるものと思われます。雇用と経済にも関わることですので、もし次の選挙で大統領が交代になっても中断されることなく継続されるでしょう。 養殖が開始されればアメリカ合衆国本土沿岸水域で初めてのこと。本土沿岸域での海面養殖の幕開けになると思われます。今回のヒラマサ養殖のまずの目標は年間5,000トンの生産です。出荷サイズは比較的小さいと思われますが、それだけに比較的良好なFCRを備え、また輸入されるブリ類よりも市場輸送にかかわるカーボンフットプリントへのインパクトが極めて小さい製品(魚)になる可能性があります。 ただし、サンディエゴはカリフォルニア州の街ですので暖かな海を想像される方も多いと思いますが実際は意外と水温が低い海域ですし、カリフォルニアと並び特別水域(Aquaculture Opportunity Area)に指定されたメキシコ湾岸水域ではハリーケーンなどの影響もあるかもしれません。 ですので、はじめからスムーズにアメリカ本土で海面養殖の生産を上げていくことは難しいと個人的には思いますが、それよりも心に留めておくべきことは、アメリカが国として海産魚養殖という産業を重視する方向に舵を切ってきたということです。 すでにハワイでは部分的に水域が解放されていますが、今後はさらにオペレーションの許可を取るためのハードルが低くなっていくことも予想されます。RAS建設・運用の気運もこれまで以上に高まってくるかもしれません。 海産物の80%以上を輸入に頼っているアメリカ。国内だけではなく、隣国メキシコ内であれ、他の中南米諸国内であれ、自らの影響下で海産魚養殖ビジネスの展開を促進し、それを国益につなげようとも自然に考え始めているでしょう。 アメリカの海産魚養殖の行方に注目です。 Open-ocean fish farm proposed off San Die...

これからの配合飼料

「From alternative to complementary: towards a more judicious use of marine resources in aquafeed」との題でオーストラリアDeakin大学のGiovanni M. Turchini教授によるプレゼンテーションです。 演題の「From alternative to complementary」ですが、セッションのなかでも使用されているようにalternativeをreplacement、complementaryをcomplementarityと読み替えられたほうがピンとくるかもしれません。例えばサステイナビリティのためには飼料中の魚粉を大豆などで置き換える(replacement)ことをイメージされると思いますが、実際には削減漁業からくる80%以上の漁獲物は資源管理されている持続性に優れたものであるのに対して、大豆では2%程度しか持続性に関わる認証を受けていませんし、さらに魚粉が限られた資源で、しかし栄養学的に優れた原料であるからこそ、より上手に魚粉を他の原料と組み合わせて(complementarity)使うことの重要性が説かれます。 それでは、そのためにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか?従来からの飼料(配合)の枠組みのなかに魚粉(魚油でも)と組み合わせる原料を入れ込み、望む性能がでる組み合わせパターンを探るのか?あるいは、対象の原料を軸として、そこに魚粉をはじめとする他の原料を組み合わせることによって、従来からある飼料(配合)の枠組みにとらわれずに新規の飼料(配合)の開発を目指すのか?前者のような従来型のアプローチでは対象原料を組み込むことができる柔軟性が初めから限定されるために原料のポテンシャルを過小評価してしまい、そこからは何も新しいことが生まれない一方で、後者では対象の原料のみならず他の原料についてもその栄養、物理、化学、生化学的特徴などをよく理解していないと進めることが難しいものの、可能性が大きく広がります(動画の39:35ぐらいからパズルの組み合わせを利用して大変わかりやすく説明されています)。例として挙げられている必須・非必須栄養素の捉え方の転換も新たなアプローチの推進に欠かせないものです。 セッションでも紹介されているように2018年にオンライン...

RASと魚とエサのエサのエサ

日本での循環養殖技術(RAS)の開発と商業化、荏原さんも参入で大きく進むことに期待です。国内向けだけでは採算をとることは難しいでしょうから、自ずと国外へも展開することになると思います。そこでも競争力をもって戦うことができる技術の開発が一つのターゲットになるでしょう。 リージョナルフィッシュさんに期待するソフト(魚)の内容を上手く定めていくことも成否に大きく関わってくると思います。昆虫をエサ(飼料原料だと思いますが)にとのことですが、環境へのやさしさにプライオリティーをおくだけでなく、どのような飼料原料を使うにしても、その安全性を確認できることが大切です。昆虫を育てる生ごみ(エサ)の安全性をどのように担保するのか?エサのエサ、場合によってはエサのエサのエサについても良く考えておく必要があります。陸上で養殖される魚でもまだまだ完全ではありません。天然魚でのマイクロプラスチックに関するコメントがありますが、そういったところがRASの優位性ではないと思います。 今日はこれから台風準備です。まずは避難所に行って状況確認してきます。皆様もくれぐれもお気をつけください。 荏原、陸上養殖に再挑戦 スタートアップと連携 ポンプ大手の荏原はスタートアップ企業と組んで水産物の陸上養殖の事業化を目指す。水槽の水を循環させて用いる装置を、荏原の技術を活用して開発する。養殖の持続性を高めるため、昆虫を魚の餌にしたり、魚のフンを肥料にしたりする研究も進める。漁獲量の減少や海面養殖での汚染などが問題となる一方、水産物消費は膨らむ。環境保全と両立できる陸上養殖システムを構築し、5年以内に収益化にメドを付ける。荏原は過去にも養殖