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8月, 2022の投稿を表示しています

変わり種の増肉係数:乾物FCR(dry matter FCR)

閉鎖循環式陸上サーモン/トラウト養殖への参入が国内で活発化している現状を上手くまとめた内容で大変分かりやすい記事ですね。各プレーヤーがどのようなビジネスモデル、飼育システムで競争し、結果、誰(どこ)が抜き出るのか?それぞれの総合力が試されることになるでしょう。今回は、陸上養殖の効率化や持続性を考える際に少しは(?)役立つと思われるちょっと変わり種の増肉係数(Feed Conversion Ratio, FCR)についてお話しします。 FCR=摂餌量/魚体増重量・・(1) これはFCRを求める基本式ですが、以前にもお話ししたようにプラクティカルには分子の摂餌量を給餌量にして、 FCR=給餌量/魚体増重量・・(2) ただし、いずれの場合でも分子と分母の単位は同じ(例えばgとg、kgとkg、tとt)であり、したがってFCRは無次元数です。 さて、このFCR、飼料のタイプによっては水分含量が異なりますので同じ土俵での比較を可能にするため、しばしば摂餌量や給餌量をas is(そのまま)ベースから乾物(Dry Matter, DM)換算して計算する必要がでてきます。 FCR=給餌量(DM)/魚体増重量(as is)・・(3) 例えばここで、水槽AにはソフトタイプのEPを、水槽Bには通常タイプのEPをいずれもある期間中は出荷まで5,000 kg(as is)与え、また、それぞれのEPの水分含量が12%および8%(つまり、それぞれのDM含量は88% (100% – 12%)および92% (100% − 8%))だったとすると、 水槽AへのDM給餌量 5,000 kg×0.88=4,400 kg 水槽BへのDM給餌量 5,000 kg×0.92=4,600 kg そして、その期間での魚体増重量が水槽Aで4,400 kg、水槽Bで4.600 kgであれば(つまり給餌量と魚体増重量が同じ)、それぞれの水槽でのFCRは、 水槽A FCR=4,400 kg/4,400 kg=1.00 水槽B FCR=4,600 kg/4,600 kg=1.00 このように、どちらも1.00で同じになります。うれしくなる数値ですね。 しかし、これらの結果から「この2つの水槽で飼料が魚体に転換される効率には差がなく同じであった」や「どちらの水槽でも与えた飼料は無駄なく魚に転換された」と言えるのでしょうか?...

思い出す話

ここ何年か終戦の日が近づくと必ず思い出す話があります。かなり小さな頃に聞きましたので、誰から聞いたものなのか、また、どこまで正確に内容を憶えているのか定かではありませんが、私たちの業界にも通ずるところがあると感じていました。 「日本の空挺部隊は降下後に落下傘(パラシュート)を丁寧にきっちりと折り畳んで回収していたが、米軍はばばばぁーっと、くしゃくしゃに畳んで、物凄いすごい速さで回収して次の行動に移っていた。最終的に米国が戦いを有利に進めることができたのは、あのような日米間の違いもあったからだろう。」 もちろん、全ての部隊にあてはまるものではないと思われますが、この話が伝えたいところは、「何に重きを置くか?」の差が戦況の行方に大きな影響を与えた要因の一つだったであろうということでしょう。 この投稿は先の大戦を論ずるものではありませんし、日本とアメリカだけの差に言及するのでもありませんが、これまでの自身の経験からしても、この話の含蓄するところには日本の養殖産業がその良さに新たなものを取り入れて国内外における国際競争力を身に着け発展していくための原理があるように思えるのです。私のセンスが古いだけなのかもしれませんが。。。 明後日8月15日に終戦の日を迎えるにあたり、新たに世界の平和への願いと祈りを捧げます。

イカの基礎的養殖システム

先週は タコの養殖 に触れましたが、そのあとすぐにイカの話が飛び込んできました。 報道されている情報を総合的にみると、アオリイカの生物・生理・生態学的特性についての基礎研究を長年進めてきているなかで、実験材料(動物)としてのアオリイカを研究室内でどのように上手く再生産(繁殖)させ、長生きさせるのかを追及しているうちに、そこから得られた知見が本種の養殖の発展に寄与するのでは?と気づかれたようです。 その気づきから生れたシステム。出願された特許の内容を確認しなければ詳細は分かりませんが、現在は実証試験を経て産業化へのポテンシャルを探っていく前の段階であるものの、従来のように漁労や増養殖といった応用分野の研究を源にするものとは異なり、基礎分野の研究に伴い開発されてきたという点で新しく、たいへん興味が持たれます。 食用頭足類では双璧をなすイカとタコ。肉食性が強く、個体密度や急激な環境(海水比重など)の変化に敏感などといった点は両類で類似していますが、三次元的に飼育可能であろうイカの特性は養殖対象動物として相対的プラスに働くかもしれません。個人的にはタコへの関心が強いものの、どちらも美味しく世界的に人気ある水産動物であることは事実であり、両類ともに産業規模での養殖を可能にする技術の開発を、動物としての特性を踏まえて辛抱強く着実に進めることが肝要です。 世界初!ツツイカの養殖システム開発に成功 OISTが商業化へ一歩 沖縄近海に3種が生息しているというアオリイカ(中島隆太博士提供) 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2日、ジョナサン・ミラー教授率いる物理生物学ユニットの研究チームがツツイカの養殖システムを世界で初めて開発したことを発表した。