アニマルウェルフェア(動物福祉)に対する国の認識を嘆いている記事ですが、そこで紹介されているような非公開の意見交換会でさえ、私の知る限り、水産養殖物については開催されたことがありません。人は体温がある温かな動物に憐れみを感じやすいこともあってか、体温がなく冷たい動物の魚類に対するアニマルウェルフェアについてはどうしても後回しになってしまい、確かにそのような歴史は欧米でもありました。しかし、今ではアトランティックサーモンをはじめとする主要な養殖魚について活発な議論がなされており、ASCやBAPといった水産養殖物認証への組み込みも現実的なものになってきています。 国は「養殖業成長産業化に向けた総合的な戦略」で2030年の北米、アジア、ヨーロッパへの輸出目標額を、ブリで2018年の10倍の1,600億円、マダイで120倍の600億円に設定しています。実現性の有無はさておき、それに向けて可能な限りブリやマダイの輸出を増やすためには、国際的な水産養殖物認証を獲得して維持することがますます必要で重要なものになってくるはずです。そして、それらの基準の設定に日本の意見や事情を反映させていくためにも、国の主導のもとで水産養殖物のアニマルウェルフェアに関する議論を始めるべきギリギリの時期に差し掛かっています。 「動物福祉を推進したところで消費者の選択につながらないので意味がない。畜産家のコストが増えるだけだ」とは記事で紹介されている農水省幹部の畜産物に対するコメントですが、水産養殖物についていうと、そこをやっていかなければ、選択されなくなるのは日本なのではないでしょうか。 註:養殖魚の福祉については昨年1月にも 記事 を書いていますのでご参照ください。 おざなりの動物福祉 「ビジョンない」農水省 「具体的なビジョンはない」と農林水産省の幹部自らが認める。家畜にとって快適な飼育環境を整えるアニマルウェルフェア(動物福祉)。吉川貴盛元農相が収賄罪に問われた事件で取り沙汰されるようになったテーマだ。動物福祉の向上には施設の改修など投資が必要で、畜産家は負担が増しかねない。検察側は、吉川氏が鶏の飼育に関する国際的な指針案について反対意見をまとめ、鶏卵業者を利するよう動いたとみている。農水省