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8月, 2021の投稿を表示しています

植物からワクチン

「葉緑体工学」という学問分野があるとは知りませんでした。従来のワクチン開発とは全く異なる分野からのアプローチです。遺伝子組み換えにより葉緑体抗原タンパク質をさせ、しかもそのタンパク質が自発的(?)にウィルスのようなの粒子になることでワクチンとしての機能を有することになるとは驚きです。腹腔内に接種した時と経口投与した際に誘導される中和抗体レベルに差があるようですが(腹腔内へのほうが高い)、感染試験では経口投与でもしっかりとした効果が得られています。元の論文でも述べられているように経口投与では多くの魚にまんべんなく均一にワクチンを与えることがどうしても難しくなるものの、一尾一尾に接種する方法(たとえ自動ワクチン接種機であっても)に比べれば、やはり大変手軽でコストも抑えることができます。また、経口投与で効果が得られるということは浸漬への応用の可能性にもつながり、養殖産業の効率化に大きく貢献するポテンシャルがあるものと思われます。経口や浸漬での使用を目的としては他のタイプのワクチンでも研究されていますが、「植物」の分野からこのような新しいタイプのワクチンが加わることで私たちが将来選択できるオプションが増えるということはとても良いことです。副作用(組織癒着、色素沈着など)や動物福祉(ストレス)の観点からも一尾一尾に接種する方法を避ける代替法の価値が世界的に再認識され、すでに開発競争が始まっている今日このごろ。日本発新タイプ植物性ワクチンの開発へ明るい話題ですね。 養殖魚の疾病予防に経口ワクチン 茨城大など、植物利用 茨城大学農学部などの研究グループは、養殖魚の疾病を予防する効果がある経口ワクチンを開発したと発表した。ウイルス由来の抗原たんぱく質を量産する遺伝子組み換え植物を作り、その粉末を餌に混ぜて投与する。従

Gill Oxygen-Limitation Theory

  Gill Oxygen-Limitation Theory(GOLT:鰓酸素制限理論)についての最新の総説です。専門外の私が理解するには難解な理論ですが、相当ざっくりとした説明が許されるならば、魚の成長スピードや魚がどこに棲む(行く、回遊する)のかは鰓(えら)でどれだけの酸素を摂取(呼吸)できるかに大きく影響されるというものです。地球温暖化による海水温の上昇のインパクトを説明する際には必ずといっていいほど言及される理論ですがGoogleでざっと調べても日本の専門家による解説(日本語)は見当たらず、これが国内ではあまり知られていない理由の一つかもしれません。この総説にあるように一般化(統一理論化)するにはまだ議論すべき点も残されているようですが、2013年の発表当初から受けてきた種々の批判のせい(?)もあってかなり洗練されてきているようです。ミクロなことでこの理論を適用することができるのかはわかりませんが、最近かなりの数のブリが北海道で漁獲されるという現象は、ブリが酸素を求めて(かつ、餌も豊富な)海水温が比較的低い海域(酸素が豊富)に回遊域をシフトさせているということを物語っているのかもしれません。また、養殖業では近年の高水温で酸素が相対的に少ない時期が長引き、それが魚の成長や生産性に悪影響を及ぼさないのかも心配です。魚の餌料転換効率や成熟のタイミングにも関わるGOLT。日本の水産業にとって身近で大切な魚を考えるときにも知っておきたい理論ですね。 The gill-oxygen limitation theory (GOLT) and its critics The gill-oxygen limitation theory (GOLT) explains many previously unexplained aspects of the life history of fish.

地中海のマダイ

地中海種苗生産・養殖大手のAVRAMARがマダイを販促しています。まだAndromeda単体のころに彼らを訪れたときにはそれほど力をいれてるようには思いませんでしたが、ここにきて積極的に動いているようにみえます。地中海でタイ(鯛)といえばヨーロッパへダイであり、体の色は銀色であるべきものですが、和食や寿司の急速な広がりから赤くても鯛であり、それが本家日本のマダイ(真鯛)であるということが人々に受け入れられやすい環境になってきているのかもしれません。ポストコロナに和食・寿司への回帰が進めばそれにあわせてマダイに対する需要も拡大するのか注目です。そうなれば、マグロ、アトランティックサーモン、トラウトにマダイが加わり、和食・寿司にあう赤い食材で現地入手可能なものがまた一つ増えることになりますね。一方で違う角度から見れば、ほぼアトランやトラウト用だけであった飼料用アスタキサンチンの新たな市場の形成にも寄与するかもしれず、添加物の分野からもフォローしていく必要がありそうです。 ところで、どうしてマダイが地中海にいるの?と不思議に思われている方もいるのではないでしょうか。私も現地で初めて知ったときには「ほんとにマダイ?」と思いましたが、人づてに聞いた話よるとどうやら昔に日本から養殖用として導入されたマダイが源になっているようです。マダイの学名は Pagrus major 。地中海には学名が Pagrus pagrus のヨーロッパマダイがおり、両種は大変よく似た魚ですが、養殖魚としての完成度に勝っていたマダイPagrus majorの生産を優先しようとしたのかもしれません。また、 Pagrus major よりも Pagrus pagrus のほうが育成して取り揚げ後の体色が黒っぽくなる傾向があるようで、このような点からも Pagrus major であるマダイのほうに養殖対象種としてのポテンシャルを見出しているのかもしれず、機会があれば地中海でのマダイ養殖の詳細なバックグラウンドと現状について直接話を聞いてみたいと思っています。 Avramar on LinkedIn: #Avramar #aquaculture #healthydiet Have you ever noticed the vivid coloring of Pagrus major, also known...

「次世代」+「日本型」=?

「次世代」に「日本型」がつきました。いつまでたっても次世代、なにをやっても日本型だと自己完結することなく、日本の水産養殖業界が広く世界と戦える術を確実にアウトプットされることを祈ります。しかし、なぜマサバなのでしょうか?他魚種にも展開可能なシステムの開発を目指すとのことですが、産業上の重要性や喫緊性のある課題はブリ、マダイ、ヒラメ、ギンザケなどの従来種にあることは自明です。ターゲットや資金が細分・分散されてしまって、本来優先されるべきことがなおざりになり、結果、日本の水産養殖業の国際競争力の低下につながらないようにとも願っています。 「持続可能な社会の実現」領域 本格研究|未来社会創造事業 魚の養殖は世界的に年々需要が増加する動物性たんぱく質確保のための有効手段の1つです。本研究開発課題では、持続可能性の観点から現在養殖の課題である、「飼料」「育種」「養殖の場」の3つの問題を解決することにより、たんぱく質の確保はもちろん、消費者が欲する多様な魚の生産を目指します