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おしゃれなレインコート

 NHKの「しあわせ気分のスペイン語」で、ガリシア地方にあるレインコートのお店が紹介されていました。女性二人で営まれている小さなお店ですが、海洋プラスチックを素材に彼女たちが作るレインコートのデザインというか彩りがすばらしく、強く印象に残りました。スペインらしい鮮やかな色使いを、二人の感性でさらに現代風に高めているように感じます。 最近ではレインコート姿の人をあまり見かけなくなりましたが、こんなにカラフルで魅力的なものなら、雨の日のエコなオシャレ着として楽しむ人が増えてくるかもしれません。水産業で着られる「合羽(カッパ)」にも多くの色が使われるようになりましたが、彼女たちが生み出すような鮮やかな彩りのものもあっていいかもと思います。 衣服や小物では、有名ブランドからも、海洋プラスチックや漁具・船具をリサイクルしたプラスチックを素材としたものが出されていますが、エコを意識してか落ち着いたデザインや色使いのものが多いような気がします。彼女たちのように、もっと鮮やかで元気なものがあって良いかもしれませんね。 NHK「しあわせ気分のスペイン語 (19) おしゃれなレインコート」 ▽雨が多いガリシアの暮らしに欠かせないレインコート▽海で回収したプラスチックをリサイクル!環境に優しくデザイン性も高い▽アロウサ島のレインコート会社を立ち上げたの二人の女性▽ Recycled Raincoat Raincoat designed in Galicia and made with spun fabric from recycled plastics collected from the sea and printed with a graphic design by Ïk. Studio.

秋刀魚の養殖

なにに影響されたのか、今年のサンマは大ぶりで漁も良く、手に届きやすい価格帯になっています。しかし、以前に比べるとまだまだ高めであり、温暖化などの環境要因によって漁獲量が下降トレンドのなかで変動していく可能性が高い以上、この魚の養殖魚としてのポテンシャルを探ろうとする動きがでてくることは不思議なことではないのかもしれません。 養殖でポピュラーなブリやマダイは海水中でバラバラに浮遊する卵を産みますが、サンマはお互いに引っ付き合いって海藻など漂流物に絡みつく卵を産みます。専門的には、前者のような卵を分離浮性卵、後者を粘着卵あるいは付着卵と呼びますが、このように、卵の時期からブリやマダイと育ち方が異なるサンマでは、飼育や生産の方法にどのような特別な注意が必要になのでしょうか。研究が進むにつれて、さまざまな面白いことが明らかになっていくに違いありません。 養殖さんまは苦いか塩つぱいか、それとも美味しいか? 楽しみですね。 マルハニチロ、サンマ養殖に成功 出荷サイズまで飼育 マルハニチロは9日、サンマの試験養殖に成功したと発表した。2024年6月にサンマの卵を出荷目安である100グラムを超える成魚まで育てた。サンマは不漁が続いているものの、事業的規模の養殖にはまだこぎ着けていないという。同社は商業出荷できるよう、大量生産に向けた精度を磨いていく。

論文紹介:循環型養殖システムに焦点を当てたヒラマサ養殖(総説)

海外でのブリ類養殖に関するオファーを私が最初に受けたのは、もう10年以上前のことです。当時は困難な点も多くありましたが、その後も彼らはそれぞれのペースでたくましく成長を続けています。海面養殖にとどまらず、ここで紹介されているように循環型陸上養殖(RAS)でも、合計1万トン以上の生産が進行中、あるいは計画されているようです。 各事業やプロジェクトの背景や目的には多少の違いがありますが、主な理由としては、(1)養殖対象としてのアトランティックサーモンからの脱却、(2)主に先進国市場における高付加価値養殖魚(high-value-added fish)への嗜好の多様化、そして(3)多くの失敗にもめげず技術開発と事業化を進めてきたタフさが挙げられると思います。 ちなみに、(1)の「脱却」には、海面養殖におけるライセンスや税金といった管理的要因、水温などの環境要因に加え、アトランをRASで養殖する際にエネルギー需要が想定以上に高かったことによる「転換」など、複数の要因が含まれています。 特に後者についてはあまり語られることはありませんが、多くの機械や機器で構成されるRASでは、それらが発生するエネルギー(熱)により、水温が自然と(自発的に)上昇する方向にあります。これが、低い水温を必要とするアトラン(に限らず冷水性魚類)には不利に働きますので、それならば、ブリのような温水性の魚をRASで養殖してみようと考える人たちも出てくるということです。 今回紹介するこの総説はブリの1種のヒラマサを題材に、成熟、生産、飼料、コスト、育種、生理、疾病などについて、かなり広範囲の情報をRASに絡めて提供してくれています。他の魚種へのチャレンジを検討する際にも、このような基本情報を一度整理し、自分たちの理解、知識、計画の妥当性を俯瞰してみるのは有意義かもしれませんね。 A Review of Seriola lalandi Aquaculture With a Focus on Recirculating Aquaculture Systems: Synthesis of Existing Research and Emerging Challenges This review p...

不完全養殖

 ウナギの人工種苗に関するニュースが立て続けに報道されています。各機関・各社それぞれの工夫と戦略で事業化に向けた競争が繰り広げられており、私たちの食卓に届く日が予想以上に早くなるのではと思っています。楽しみですね。 今回はこの記事で使用されている「完全養殖」と「不完全養殖」という用語について、すこし説明を加えたいと思います。この記事の内容自体を論じるものではありません。 「完全養殖」は、養殖の形態の一つを指す用語です。この養殖では、卵から成魚のライフサイクル(生活史)をすべて人間の管理下で回し、魚を生産します。つまり、天然種苗※ではなく人工種苗※を育てて卵を採り、そこから生まれた魚を育てる-この流れを繰り返すのが「完全養殖」です。 それでは「不完全養殖」とは? インターネット上の情報を調べると、今回の記事にもあるように、天然種苗を使う養殖がそれに相当するとされているようですね。 私は「不完全養殖」という用語を使ったことがありません。実際のところ、この分野に関わる多くの方もそうではないでしょうか。天然種苗を用いる養殖については、単に「養殖」と呼ばれることがほとんどです。 これは、「完全養殖」の定義が明確であるため、わざわさ「不完全養殖」という用語を使用せずとも、「完全養殖」でなければ天然種苗を使用しているという理解があるからですし、「完全」という言葉は、必要なものがすべてそろっていることや、欠点などのないようにすることを意味しますが、資源としての天然種苗を適切に必要なだけ利用する養殖に何ら欠点があるわけではなく、「不完全」ではないからです。 「完全養殖」という言葉の語感、響き、座りが非常に良いため、「完全養殖」の箇所を残し、その対になる言葉として「不完全養殖」という語が生まれたのかもしれません。確かに、天然種苗を過剰に採捕して資源を損なうような養殖については、的を射た表現とも言えますが、資源管理された健全な天然種苗を利用して真摯に取り組む養殖までをも一括りそれに含めることは避けていければと思います。 ちなみに、国際的に「完全養殖」は"hatchery-based aquaculture"、あるいは「完全」を強調したい時には"full-life cycle hatchery-based aquaculture"などと呼ばれ、私たち...

養殖用種苗について思うところ

 養殖では魚種に関係なく、人為的条件下で生産される稚魚を「人工種苗」、天然で採捕される稚魚を「天然種苗」と呼びます。養殖はこれらの種苗を商品サイズの魚にまで育て、販売する事業です。 マグロに続き、日本の養殖界では最後の魚(ターゲット)といわれていたウナギの人工種苗の生産もここまで大きく発展しました。一般の小売店に並ぶ日も遠くないのかもしれません。すばらしいですね。 一方で、海に囲まれた日本では以前から天然の稚魚を採捕し、天然種苗として養殖に利用してきました。ウナギの他ではブリやマグロなどがそうで、天然の資源(魚)へのやみくもな依存やそれに伴う乱獲を避けることが前提ですが、これも持続性が高い養殖の一形態です。 人工種苗には育種による高成長や耐病性などの付加など、それにしか担えない役割があり、養殖産業の将来を支えるのに必須なアイテムであるものの、自然の恵みがもたらす天然種苗も適切に利用していくことが、これからも日本の養殖の姿であり利点であると思います。 ただ、現実には、天然種苗が不漁の時にはすこぶる要求が高まる人工種苗も、天然種苗が豊漁の年には価格や養殖効率の面から敬遠されます。また、そういったなかで、人工種苗の産業・経済的な意義が薄れて生産されなくなり、その技術を継承・発展させることもできなくなる。逆に、人工種苗の使用を一律に義務付ければ、これまで天然種苗の採捕に従事してきた人々の生業への影響は避けられず、また、天然種苗が豊富に存在しても、その自分たちの資源の利用を自ら放棄してしまうことにもなりかねません。 こうした矛盾や対立は日本の養殖産業に良くない影響を与えるものでしかないと思うのです。人工種苗と天然種苗、それぞれの特性と利点を理解し、両者をうまく共存・活用していくことこそが、日本の養殖の未来を支える鍵であると私は考えています。 追記:人工種苗と天然種苗については以前にも思っているところを書いておりますので、ご参照いただければ幸いです。 「 資源であるためには:種苗と餌飼料 」 「 天然種苗と人工種苗のバランス 」 「 人工種苗はかっこいい? 」 「 完全養殖だけが養殖ではない 」 ウナギ、完全養殖で量産へ 水研機構とヤンマーが特許取得 水産...

生簀内の魚の数

養殖魚への給餌は、(1)生簀内の魚の摂餌行動・活性と、(2)そこにいる魚のサイズ、尾数およびバイオマスとの関数ともいえるオペレーションです。デジタル手法で給餌するにしても、これは不変なファンダメンタルであり、今回のシステムは「適正給餌センサー」で(1)を、「尾数カウントセンサー」と先行の「魚体重推定システム」で(2)を把握して、そこからの最適解を養魚家に提供しようとするものだと考えられます。 しかし、それを達成することは簡単なことではなく、実際には互いのフィードバックで決定されていくパラメーターである(1)と(2)を高い精度で並行的に洗練・進化させていくことが理想であるものの、 以前の投稿 でも紹介したように、特に(2)を構成する「尾数」の情報を得るシステムの開発に比較的高いハードルが存在します。 尾数の把握には、生簀の中で泳ぐ魚を直接的に見分ける(個体識別する)ことと、それを遊泳速度や方向から間接的に補完する方法に加えて、ヒトや魚群の期待や予測に反する行動をしめす個体の尾数を理論的に求める手法の組み合わせを処理できる複合的なシステムが求められるからです。もちろん、これとは異なる仕様のシステムも考えられますが、尾数の把握というハードルが相対的に高いことは変わらないでしょう。 ただ、これは一方で、ここを完成させると精密給餌への道がパッと開けて養殖管理の高効率化につながるとともに、魚の資産価値の把握と評価に対する信頼度が一気に高まって、生産・経営計画の策定や外部からの資金の調達等にかなり大きな効果を与えられることを意味します。 グローバルに見ても、古野電気さんをはじめ日本にはこの分野に優れた技術者、研究者、企業、スタートアップが多いと感じています。おさかな国ですからね。それぞれでの開発に加え、オープンイノベーションも活かすことで加速度を増した開発が進められることが期待されます。 古野電気、養殖業のDX支援 いけす管理のAI解析用センサー開発 古野電気は養殖業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を本格化する。いけすの状態を測る新センサーを開発。計測したデータを人工知能(AI)で解析し、生育状況の正確な把握を目指す。古野電気は漁船用の電子機器で高いシ...

エスカルゴの養殖

「研究にゴールはない。」 養殖には生物種を超えて共通する挑戦があり、1つ1つのマイルストーンに達する苦労と努力も共通するんだと、大きくうなずきながら読んで、養殖をサポートする自分も頑張らないとと熱くなりました。 しかし、ここまでできるのは、すごいの一言に尽きます。 エスカルゴ養殖、殻破った成果 鉄工所経営者が挑んだ45年 高瀬俊英(三重エスカルゴ開発研究所) 「なぜエスカルゴの養殖に挑んだのか?」。これまで何度も聞かれてきたが、無理もない。元々、鉄工所を経営しており、全く畑違いの分野だったからだ。現在、三重県松阪市で、エスカルゴ牧場を開いている。養殖は不可能とされていたが、40年以上にわたり試行錯誤を続け、・・・・・