養殖用種苗について思うところ
養殖では魚種に関係なく、人為的条件下で生産される稚魚を「人工種苗」、天然で採捕される稚魚を「天然種苗」と呼びます。養殖はこれらの種苗を商品サイズの魚にまで育て、販売する事業です。 マグロに続き、日本の養殖界では最後の魚(ターゲット)といわれていたウナギの人工種苗の生産もここまで大きく発展しました。一般の小売店に並ぶ日も遠くないのかもしれません。すばらしいですね。 一方で、海に囲まれた日本では以前から天然の稚魚を採捕し、天然種苗として養殖に利用してきました。ウナギの他ではブリやマグロなどがそうで、天然の資源(魚)へのやみくもな依存やそれに伴う乱獲を避けることが前提ですが、これも持続性が高い養殖の一形態です。 人工種苗には育種による高成長や耐病性などの付加など、それにしか担えない役割があり、養殖産業の将来を支えるのに必須なアイテムであるものの、自然の恵みがもたらす天然種苗も適切に利用していくことが、これからも日本の養殖の姿であり利点であると思います。 ただ、現実には、天然種苗が不漁の時にはすこぶる要求が高まる人工種苗も、天然種苗が豊漁の年には価格や養殖効率の面から敬遠されます。また、そういったなかで、人工種苗の産業・経済的な意義が薄れて生産されなくなり、その技術を継承・発展させることもできなくなる。逆に、人工種苗の使用を一律に義務付ければ、これまで天然種苗の採捕に従事してきた人々の生業への影響は避けられず、また、天然種苗が豊富に存在しても、その自分たちの資源の利用を自ら放棄してしまうことにもなりかねません。 こうした矛盾や対立は日本の養殖産業に良くない影響を与えるものでしかないと思うのです。人工種苗と天然種苗、それぞれの特性と利点を理解し、両者をうまく共存・活用していくことこそが、日本の養殖の未来を支える鍵であると私は考えています。 追記:人工種苗と天然種苗については以前にも思っているところを書いておりますので、ご参照いただければ幸いです。 「 資源であるためには:種苗と餌飼料 」 「 天然種苗と人工種苗のバランス 」 「 人工種苗はかっこいい? 」 「 完全養殖だけが養殖ではない 」 ウナギ、完全養殖で量産へ 水研機構とヤンマーが特許取得 水産...