Behavioral fever:疾病に対抗する変温動物の特性
前にも触れたトピックスですが、魚介類の養殖において疾病のインパクトを軽減する方法の一つに温度処理(療法)があります。多くは水温を高める高温処理で、状況により異なりますが、数℃~5,6℃の範囲で水を全体的あるいは部分的に加温する方法が一般的です。では、なぜ水温を上げることが効果的なのでしょうか? この論文では、エビにとって致命的なホワイトスポット病(ウィルス性疾病)に感染させたバナメイを、適水温で27℃一定の4つの区画を持つ水槽(区画は連結されておりエビが自由に行き来できる)あるいは同一タイプの水槽でそれぞれの区画の水温を27、29、31および33℃の順に設定した水槽に収容したところ、前者ではほぼ全滅(斃死率約90%)したのに対して、バナメイが高温側の区画へと自ら移動できた後者では斃死率が約30%に抑えられました。つまり、バナメイは自らを高温にさらすことで、この疾病に対抗する手段を持っていることになります。 動物、特に変温動物が感染症や環境ストレスに対抗するために能動的かつ積極的に高温な環境へ移動して体温を上昇させることを「behavioral fever*」と呼ぶそうです。その発現(発動)のメカニズムの解明についてはまだこれからのようですが、このような、動物本来の特性(nature)を活かして疾病に対抗することができれば、養殖の技術や産業の持続性もより高まるのではないでしょうか。 今回のバナメイの例では、高温によってウィルス(のDNA)複製が阻害されることが斃死を抑えた主な要因と考えていますが、データからはそれだけでは説明しきれない要因も感じられます。他の疾病や魚介類での研究も期待されますね。 *日本語では正式な学術用語がないようですが、「行動性発熱」や「行動性獲得熱」などと言えるのかもしれません。 Shrimp (Penaeus vannamei) survive white spot syndrome virus infection by behavioral fever Both endotherms and ectotherms may raise their body temperature to limit pathogen infectio...